社会政策
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イギリス住宅政策と社会保障改革(<特集>居住保障と社会政策)
所 道彦
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2014 年 6 巻 1 号 p. 54-64

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抄録

住宅政策は,イギリス社会政策の主要な領域の一つである。イギリスの住宅政策は,戦後の社会的住宅の供給拡大から,サッチャー政権下の民営化(売却)を経て,持ち家や民間賃貸住宅の拡大という展開をたどる。自助努力で住宅を確保できない人々は住宅手当を含む所得保障制度に依存せざるを得ない状況が拡大する中で,低所得者やホームレスなど居住弱者への支援や特定階層の集中による社会的排除をめぐって様々な議論が行われてきた。現在の連立政権による社会保障制度改革では,住宅手当が給付削減の主要ターゲットになっており,各種手当の総額に対する上限の設定や居住している住宅の余剰スペースについて住宅手当を減額するといった改革が進められている。これらの改革の影響により,家賃が支払えない人々が増加し,低所得者が居住できる住宅が不足する地域では転出を余儀なくされるケースが増加することが懸念されている。本論文では,イギリスの住宅政策の展開とイギリスにおける社会保障改革の影響を整理するとともに,日本の住宅政策への示唆として,ナショナルミニマム保障のための住宅政策の重要性,住宅の「質」と切り離して現金給付の議論を行うことの問題点を考える。そして,「住宅」の視点だけではなく,個別のニーズや「居住環境」全体を社会的包摂のあり方と関連させて検討することの必要性について論じる。

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© 2014 社会政策学会
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