2007 年 6 巻 1 号 p. 77-97
著者は,高齢者が居住する特別養護老人ホームに通い,入居者と室内外においてともに時間を過ごすかかわりを重ねてきた。入居者とかかわり続ける中で,施設環境は高齢者が生活する場所として大切な何か,言い換えると,当たり前に訪れるべき何かしらの日常体験が欠けてしまっているように感じられてしまう。その当たり前に訪れるべき日常体験として,本論においては「外へ出る」という事象に注目した。そして,外へ出ることに含まれる意味を探索するために,著者が同伴した入居者との外出に際して実現した行為や生成した体験を描き出し,さらに解釈を示した。それらの過程を経て,外へ出ることに含まれる意味とは,行為が実現し,体験が生成することそのものという見解を示した。つまり外へ出ることに含まれる意味とは,事象の外部から「意味的である」と指し示すものではなく,描き出された行為や体験の内部に入り込みその質を感受することであることを示唆した。最後に,施設環境においては「外」と「内(家)」という区分が自明なものとして定位できないことを指摘し,施設内外に潜在していると思われる行為や体験の整理を通して,高齢者の生活において大切な欠かさざることをより明らかにしていくことを今後の課題とした。