質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
他者になる夢の現象学的解明
フッサール志向性論に基づく主題分析
渡辺 恒夫
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2018 年 17 巻 1 号 p. 66-86

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抄録

現実には不可能な他者変身がなぜ夢では可能なのかの現象学的解明を行う。筆者自身が夢日記ウェブサイトに掲 載した99例の自己体験夢事例より15例の他者変身夢を抽出してデータとした。方法はシェフィールド学派に学 び,フッサールの志向性論から関連する志向性分類表を作成して主題分析に用いた。ジオルジの記述的現象学の 方法に倣い,夢テクストの段階的分析進行表を作成して分析を行うが,夢の現象学独自の方法として,夢テクスト に想像的変更を加えて現実テクストを作成し,両者を比較しつつ主題分析を行うことで,他者変身夢に固有の構 造的特徴を抽出した。各例の構造的特徴の比較の結果,適切な分類に達することで他者変身夢の全貌が明らかに なった。分類中,虚構の他者への変身と実在他者への変身が最重要な区分とされ,前者は「準現在化対象の現在 化」,後者は「向現前化対象の現前化」として主題分析された。現象学的解明として,前者は現実における二重の 志向作用が,後者は同じく三重の志向作用が,共に夢では一重になることで他者変身が実現するとされたが,後者 の解明には,ヘルトが他者経験における向現前化を二種の準現在化の協働作業として分析しているところに基づ く,フッサールの志向性分類表の改訂版を用いた。最後に,本稿でなされた他者変身夢の現象学的解明が,他者経 験の自明性をさらに問題化する途を拓く可能性が論じられた。

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© 2018 日本質的心理学会
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