天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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ヤクアミドBの構造訂正と全合成
武藤 大之倉永 健史瀬底 祐介後藤 智見井上 将行
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抄録

【序】

ヤクアミドAおよびBは、屋久新曽根産カイメンCeratopsionsp.から単離・構造決定されたペプチド系天然物であり、その構造はそれぞれ1a/1bおよび2a/2b と決定された(Figure 1)1)。これらは13残基の直鎖状ペプチドであり、4個の不飽和アミノ酸を含む11個の非タンパク質構成アミノ酸、特徴的なN末端アシル基(NTA)およびC末端アミン(CTA)からなる特異な一次構造を有する。

ヤクアミドAおよびBは、第3残基が異なるが、共にマウス白血病細胞株P388に対して強力な増殖阻害活性(ヤクアミドA: IC50 = 8.5 nM, ヤクアミドB: IC50 = 2.4 nM)を示す。また、ヤクアミドAはヒトがん細胞株39系(JFCR39)に対して既存の抗がん薬とは異なる特異な増殖阻害活性パターンを示すことから、新規作用機序を有すると予想される。したがって、その詳細な構造活性相関研究は、新規作用機序を持つ抗がん薬の創出につながる可能性がある。しかし、ヤクアミドAおよびBは深海から採取された希少カイメン(湿重量340 g)から極微量(ヤクアミドA: 1.3 mg、B: 0.3 mg)しか得られず、天然物を用いた詳細な生物活性の評価・解析は困難であった。我々は化学合成による量的供給を目指してヤクアミドBの全合成研究を行った。

【提唱構造2の全合成】

我々は、2013年にヤクアミドA の提唱構造1a/1bの全合成を報告した2)。そこで、1a/1bで用いた手法を応用し、ヤクアミドBの提唱構造2a/2bの合成を行った。まず、ヤクアミドAとは異なるフラグメントである7の合成を行った(Scheme 1)。アミド3とヨージド4を銅を用いたカップリング反応に付すことでE/Z選択的にジペプチド5を合成し、5の加水分解によって6とした。C末端における縮合時のE/Z異性化を防ぐために、続く3工程を経てエナミド窒素原子をBoc基で保護し、フラグメント7を得た。

続いて、1の合成中間体である8に対して、フラグメント7, 9, 10aまたは10bを順次連結することで2aまたは2bを得た(Scheme 2)。しかし、合成した提唱構造2a/2bとヤクアミドBの天然物標品2をHPLCで分析したところ、これらの保持時間は一致しなかった。

この結果から我々は、提唱構造2a/2bに誤りがあると考え、ヤクアミドBの構造訂正を試みた。単離されたヤクアミドのほとんどは生物活性評価に消費されており、天然ヤクアミドB の残量は0.1 mg程度と非常に限られていた。このため、天然物の分解・修飾のみによる構造決定は困難であった。そこで、真の構造およびそのフラグメントとして予想される構造異性体を複数合成することにより構造決定を行うこととした。

【平面構造の決定】

最初に、ヤクアミドBの天然物標品2をNMRおよびLC-MSによって解析し、各アミノ酸残基の絶対立体配置を除く平面構造に誤りがないことを確認した(Figure 2)。すなわち、LC-MSでの2のフラグメントイオンの解析から、2残基目から10残基目までの配列は提唱構造と一致することが示された。NTA~1残基目および、10残基目~CTAは、HMBC相関によって提唱構造の配列が正しいことを確認した。さらに、DIleのE/Zは、ヤクアミドAにおいてNOESY相関によって決

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© 2015 天然有機化合物討論会電子化委員会
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