天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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グルコース飢餓環境選択的がん細胞増殖阻害作用を有する新規ポリケチド類の化学構造と生物活性
古徳 直之戸田 和成荒井 雅吉石田 良典松本 紘和村岡 修小林 資正
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p. Oral19-

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抄録

近年、がん細胞と周辺環境との相互作用が、がん細胞の増殖や生存に大きく関与していることが明らかになり、がん微小環境におけるがん細胞の応答や代謝が、がんに対する新しい薬剤標的として注目されている。特に固形がんでは、がん細胞が増殖するためのエネルギーを、主に新生血管から獲得すると考えられているが、急激に増殖するがん細胞に対し、血管新生は十分に伴わず、腫瘍内の新生血管から離れた場所では酸素や栄養の供給が滞り、低酸素、低グルコース状態となっている。このようなストレス下にあるがん細胞では、正常な立体構造と機能を失ったタンパク質が小胞体に蓄積され、小胞体ストレスと呼ばれる状態となるが、がん細胞は代謝経路を変化させ、小胞体ストレス耐性を獲得する。同時に、化学療法や放射線療法に対して抵抗性を示し、病態の悪化に寄与することが報告されている。1)

 こうした背景下、がん細胞の低酸素環境適応については研究が進んでおり、低酸素に対する生体反応の中心を担う転写因子として知られているHypoxia Inducible Factors (HIFs)については、その阻害剤の臨床開発が進められている。2) 著者の研究室においても、インドネシア産海綿Dactylospongia elegansから低酸素環境選択的ながん細胞増殖阻害活性を示すfurospinosulin-1 3)を見出しており、医薬リードとしての展開を進めるとともに、ごく最近、その標的分子の解明に成功している。4) 一方で、同時に引き起こされるグルコース飢餓環境に適応したがん細胞に関しては今まで注目されておらず、その阻害剤の開発研究も少ない。現在までに、グルコース飢餓環境のがん細胞選択的に細胞増殖阻害活性を示す化合物として、放線菌actinomycetesの二次代謝産物であるkigamicin D 5)や、生薬の牛蒡子由来のarctigenin 6)などが見出されているが、がん細胞のグルコース飢餓環境への適応機構の全容は未だ明らかにされていない。また、慢性的なグルコース飢餓環境は正常な組織には見られない、がん特有に観察される環境であることから、グルコース飢餓環境に適応したがん細胞選択的に細胞増殖阻害活性を示す化合物は、副作用の少ない新しい抗がん剤のリード化合物になることが期待される。

 そこで今回著者らは、新しい医薬シーズの創製を目指すとともに、得られた化合物をケミカルツールとしてがん細胞のグルコース飢餓環境に対する適応機構を解明することを目的に、保有する底生海洋生物の抽出エキスや海洋由来微生物の培養抽出物ライブラリーを対象にグルコース飢餓環境選択的ながん細胞増殖阻害物質の探索を行った。

1. グルコース飢餓環境選択的ながん細胞増殖阻害物質のスクリーニング

 活性試験には、ヒト膵臓がん細胞 PANC-1 を用い、グルコース飢餓環境への適応が小胞体ストレス応答(UPR)の指標である78kDa glucose-regulated protein (GRP78)の発現上昇や、Aktのリン酸化が亢進することで確認された、グルコース非添加培地中での培養環境を用いた。各wellに被検サンプルを添加し、12 時間培養後、WST-8染色剤を用いた比色定量法により細胞増殖阻害率を算出するとともに、通常のグル

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© 2014 天然有機化合物討論会電子化委員会
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