ベトナム株式市場が設立してから15年が過ぎているが,その上場企業の株式所有構造については,誰の手によっても明らかにされてこなかった。本稿では,ベトナム上場大規模企業305社のデータを用いて株式所有構造を分析しその特徴を摘出する。その際,先行研究に依拠しながら同じ社会主義国である中国の上場企業と比較し,社会主義市場経済体制を採用する両国の相違点・類似点を明らかにする。同時に,ベトナムと東南アジア諸国の上場企業の所有構造と比較し顕著な相違点を指摘する。
分析の結果,つぎのことが明らかになった。第1に,ベトナムでは,法人所有株の比率が34%で最も多く,また筆者の設定した基準により分類した所有構造の類型化の分析でも,法人保有型企業の割合が38%で最も多い。また,その法人所有株の内容については,事例から分かるように,外国の投資ファンドの割合が多いという点が注意すべき特徴である。第2に,国家所有株についてであるが,その比率が19%で法人所有株の割合より少なく,中国の37%以上と比べると遥かに少ない。この点は,同じ社会主義であるベトナムと中国の上場企業の所有構造の大きな違いである。第3に,家族企業(本稿では「役員(家族)保有企業」と呼ぶ)の割合は22%と少なく,アジア諸国と比べると,著しく少ない。