日本内科学会雑誌
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大網原発と思われる波動を呈する巨大平滑筋肉腫の1剖検例
松本 和則岡野 健一石井 当男村尾 覚中沢 正樹
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1980 年 69 巻 8 号 p. 951-953

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抄録

大網原発の平滑筋肉腫は極めて希とされている.われわれは波動を呈する巨大な大網原発と思われる1剖検例を経験したので,これまで内外で報告された6例とあわせて若干の考察を加えて報告する.症例は53才の主婦で,家族歴・既往歴に特記すべきものはない.昭郡51年4月中旬頃より下腹部痛,腹部膨満, 38°C前後の発熱が出現した. 4月24日某病院に入院し,諸検査を受けるも原因が不明のため紹介されて, 5月14日当科入院.入院時眼瞼結膜は貧血性で,腹部は全体的に膨隆し波動を認めた.入院時の主な検査成績は中等度貧血,総蛋白およびアルブミンの低値, LDHの上昇等で,腹水は血性で細胞診はclass IVであつた.腹部エコーで左上腹部に嚢腫様所見が得られた,入院後腹部はさらに膨隆し,貧血も進行して赤白血病様反応がみられた. 6月7日体動後突然呼吸困難が出現し死亡した.剖検にて腹腔はほぼ軟い白色の腫瘍で占められ,腹水は少量であつた.腫瘍の一部と大網との剥離は困難で,他に原発巣を思わせる所見はなく,大網原発と考えられた.組織学的には中等度の多型性と分裂像を示す不定型の紡錘型細胞の束状の配列がみられ,血管周囲での核のpalisadingまたはpseudopalisading像がみられ平滑筋肉腫と診断された.本症例は臨床上多量の腹水を伴う原発不明の悪性腫瘍が疑われ,比較的短い経過にて死亡した.腹腔内腫瘤の鑑別診断に際し,考慮さるべき疾患と考え報告した.

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