2018 年 67 巻 10 号 p. 581-588
電荷を有するイオン性化学種の分配や膜透過は,膜や水相の電気的中性を保つために,中性分子の場合と異なり,共存するイオンの影響を大きく受ける.そのため,pHによってイオン化した塩基性あるいは酸性薬物の膜透過性を定量的に評価することは難しい.著者らは,水-脂質二分子膜系でのイオン分配に対して,水-有機溶媒系でのイオン分配と同様の平衡が成立すると仮定し,イオン性化学種の脂質二分子膜(BLM)への分配や吸着を定量的に評価した.イオン性化学種として,疎水性カチオンであるRhodamine 6G(R6G+)を用い,共存アニオン(Cl−, Br−, BF4−, ClO4−, picrate)の影響について調査した結果,イオンは対イオンとともにBLMへと分配し,BLM中でイオン対を生成する一方,イオンのBLM表面への吸着は,対イオンの種類や濃度に依存しないことが分かった.本稿では,イオン性化学種のBLMへの分配・吸着に関するモデルを提案し,同モデルにしたがえば,イオン性化学種や共存アニオンの水-BLM系での分配定数(KD),BLM中でのイオン対生成定数(Kip),イオン性化学種のBLM表面への吸着定数(Kad)を,それぞれ実験的に評価できることを紹介する.