1989 年 37 巻 5 号 p. 462-466
本稿は, 日本最初の体系的化学であり, その体系性と規模において, 江戸時代最大の自然科学書である『舎密(せいみ)開宗(かいそう)』の種本, 特徴, 後世に及ぼした影響と, 著者宇田川(うだがわ)榕菴(ようあん)の人となり, 物質観, 独創性について述べたものである。いわゆる蘭学の一部として舎密(セイミ)という名で呼ばれた化学を, 榕菴が, 器具も薬品もなく, たまたま手に入ったオランダの書物をたよりに, どのように実験・観察を行い, しかもシーボルト事件, 蛮社の獄といった嵐の中で『舎密開宗』を書き続けたかを化学教育の立場から記述した。