日本文学
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国民教育としての文学教育を(<特集>日本文学協会第58回大会報告(第一日目))
甲斐 睦朗
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2004 年 53 巻 3 号 p. 22-30

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抄録

日本文学協会は、これまで、子どもの状況を見すえながら、文学作品に内在する価値を引き出すことによって、これは比喩的な表現であるが、子どもに新しい生命を吹き込む教育を行ってきたと評価することができる。ただ、比較的広い視野と射程の長さをもちながら、なお光を当てていない分野があるように思われる。文化審議会国語分科会はこの二年間「これからの時代に求められる国語力について」の審議を重ねている。今年は五〜七月の間、読書活動等小委員会と国語教育等小委員会に分かれて審議を行ってきた。読書活動等小委員会では、乳幼児から高齢者までの、生涯にかかわる読書活動の推進・継続にはどういう手立てが必要かについて話し合いを続けてきた。やはり焦点は学校教育におかれている。話し合いの出発点に次の問題点がある。小学生、中学生、高校生と学年が上がるにつれて、一か月に一冊も本を読まない割合が増えている。二〇〇〇年の資料では不読者は順に一六%、四八%、五九%に上る。別の調査では、全世代の三七・六%が不読者である。ところが、これを、町村から大都市までの都市規模で分けてみると、読書離れは都市規模の大きさに反比例している。東京都区部は不読者の割合が一八%でしかない。この不読者の多寡は、身近に書店や図書館があるかどうかに関係しているように思われる。昨年「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」が閣議決定された。後は実行あるのみという状態になっている。他方、朝の一〇分間読書運動が全国の学校で実践され始めているが、その将来の指針・方向などについて日本文学協会はどういう立場をとるべきか。ごく一部の理論的に精緻な実践に終わりそうなことが惜しまれる。以上、日本文学協会が、現代の読書活動に関する状況を幅広く把握し、その指導的役割を適切に果たす方向に進むことが期待される。

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© 2004 日本文学協会
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