児童青年精神医学とその近接領域
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原著
大災害と幼児のPTSD
─東日本大震災によりTraumaを受けた幼児の追跡研究─
本間 博彰奥山 真紀子藤原 武男江津 秀恵
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2016 年 57 巻 2 号 p. 283-297

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抄録

【研究の背景】本研究は巨大な自然災害が幼児の精神面に及ぼす影響を調べたものである。2011年3月11日に発生した東日本大震災は,Magnitude 9の地震とそれに引き続いて発生した巨大津波による歴史的な災害を引き越し,18,000名を超える死者と行方不明者および38万人を超える仮設住宅生活を余儀なくされた被災者を出した。子どもについては,700名を超える犠牲者に加えて,250名の孤児と1500名を超える遺児が発生した。多くの教訓を内包したこの度の東日本大震災に限らず,わが国は世界で最も自然災害の多発する国のひとつである。【研究方法と対象】本研究は,東日本大震災の際に数次にわたる連続した心的外傷体験に曝露し生命的危機の中を生き延びた保育所の幼児71名に対して保育所および進学先の学校と連携してケアと3年間の経過観察を行い,研究の条件の整った32名についてPTSDおよびTraumaと関連する精神疾患(以下PTSD関連疾患と称する)の実態と臨床経過を調査したものである。【結果】幼児期の子どもにおいてもPTSD関連疾患の発生率が高いことや,子どもは多彩な症状を示すことが明らかとなった。PTSDの主要症状の再体験症状や過覚醒症状が子どもにも広く認められていたが,注目すべきは意識の狭窄症状を示す感情鈍麻(Numbing)や解離(Dissociation)が最も多く出現していたことであった。また災害発生時の親の付き添いの有無や家族的問題がPTSDの発現や悪化および遷延化の要因の一つとなることが示唆された。【考察】幼児期の子どものPTSD関連疾患の発生頻度は決して低くはなく,かつ感情鈍麻や解離などの症状は初期の支援者や養育者に見逃されやすく,被災地のメンタルへルス従事者にあらためて注意を喚起する必要がある。幼児はPTSD関連疾患の受傷のみならずその後の心のケアにおいても親の影響を受けることからPTSDの悪化としてのComplex PTSDなどに対する予防的な視点も不可欠となる。

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© 2016 一般社団法人 日本児童青年精神医学会
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