計算機統計学
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論文
ロバスト回帰を利用した乗率の調整
和田 かず美椿 広計
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2018 年 31 巻 2 号 p. 101-119

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抄録

 本論文では, 標本調査の母平均推定のためのロバスト回帰を用いる乗率の調整方法を提案する. 古典的な調査統計では, 有限母集団の平均値や合計値などを得るために, Horvitz-Thompson推定量を用いるのが一般的である. 標本設計時に抽出率の逆数としてこの推定に用いる乗率が決まるが, 大きな乗率を持つ調査単位が特異な値をとる場合に問題が発生する.
 ここで提案する乗率の調整法には, 各データにその外れ値らしさ (outlyingness; e.g. Marrona et al., 2006, p.5) に基づき加重するロバスト回帰手法を利用する. 回帰パラメータのロバスト推定時に得られるウェイトは, 個々のデータのモデルからの乖離度の指標とみなすことができる. 標本設計時に決まる乗率を, このロバストウェイトで調整することにより, 抽出率だけでなく外れ値らしさを考慮した乗率を得ることができる.
 この方法でより推定効率の高い母集団推定値が得られることを確認するため, 繰返し加重最小2乗法 (IRLS: Iteratively Reweighted Least Squares) アルゴリズムによるM-推定量とGM-推定量を用いて, 乱数データと実データについてモンテカルロシミュレーションを行い, 目的変数の母平均の推定効率を比較した.
 その結果, GM-推定量よりも単純なM-推定量から導かれるウェイトを用いて乗率を補正した場合の推定精度が高くなることが示された.

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© 2018 日本計算機統計学会
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