植物分類,地理
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日本産雌雄同株及び雌雄異株クロモの染色体数と地理的分布
中村 俊之角野 康郎
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1993 年 44 巻 2 号 p. 123-140

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抄録

クロモは湖沼, ため池, 河川や水路など, さまざまな水域に生育するトチカガミ科クロモ属の沈水植物である。アジアを中心に旧大陸の温帯から熱帯域に分布する種であるが, 1960年代以降はアメリカ大陸に帰化して問題雑草となるなど, 現在では全大陸から分布が報告されている。このように広い分布域を持つ種はさまざまな種内変異を含むのが普通であり, クロモについても外部形態, 染色体数, 性表現, 越冬様式, 酵素多型などさまざまな種内変異が報告されてきた。日本産クロモについては染色体の倍数性で2倍体, 3倍体が知られ, 外部形態の変異性に関しても報告されている。また既刊の図鑑類のほとんどは日本のクロモを雌雄異株と記載しているが, 三木茂博士(1937)は早くから雌雄同株のクロモが日本にも存在することを指摘していた。さらにクロモの越冬芽として, 今まで, 腋性殖芽が報告されていたが, 最近, 塊茎を形成するクロその存在も知られるようになった。このように日本産クロモについては様々な種内変異が認められていたが, 従来の報告では取り上げる形質も調査地域も限られたものであった。特に雌雄同株のクロモと塊茎型のクロモの実態については, ほとんど調査が進んでいなかった。そこで日本産クロその種内変異の実態を解明するため, 日本全国の広範な地域から集めたクロモの計263系統について染色体数, 核型, 性表現, 越冬様式の諸形質を詳細に調査した。その結果, 日本には雌雄異株, 雌雄同株の両系統のクロモが存在し, 前者は全国的に分布するが, 後者は西南日本に分布が限られるということが明らかになった。また雌雄同株のクロモは越冬芽として塊茎を形成し, 雌雄異株のクロモは腋性殖芽を形成するという対応関係も確認された。雌雄異株のクロモには従来報告されていたように2倍体と3倍体が存在するのに対し, 日本産の雌雄同株はすべて3倍体であることも判明した。核型では雌雄異株と雌雄同株の系統に差は認められなかったが, 現在進めつつある酵素多型分析の結果からも雌雄異株のクロモと雌雄同株のクロモが全く異なる系統群であることが判明しつつある。

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© 1993 日本植物分類学会
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