日本作物学会紀事
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水稲稈基部の曲げ応力に影響する細胞壁構成成分の品種間差異
大川 泰一郎石原 邦
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1993 年 62 巻 3 号 p. 378-384

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抄録

耐倒伏性に関係する稈基部の曲げ応力が著しく異なる7品種の水稲を用いて, 稈を構成するどのような構成成分が曲げ応力と関係し, 品種間の曲げ応力の相違をもたらすかを検討した. 稈の細胞壁構成成分の組成割合には品種間で数%の相違は認められたが, この組成割合と品種間の曲げ応力の相違との間に明確な関係は認められなかった. 稈の構成成分の含有量と曲げ応力との関係を明らかにするため, 単位組織体積当りの細胞壁構成成分含有量, すなわち, 細胞壁構成成分密度を品種間で比較した. その結果, 細胞壁多糖類構成単糖であるグルコース密度, キシロース密度および同じく細胞壁を構成するリグニン密度に大きな品種間差異があった. 曲げ応力が大きいことによって葉鞘付挫折時モーメントが大きく倒伏抵抗性の大きい台中189号, 台農67号では, 曲げ応力の小さいコシヒカリ, フジミノリに比べてグルコース密度, キシロース密度, リグニン密度が大きかった. 一方, これらの品種に比べて断面係数は約2倍大きいが, 曲げ応力はコシヒカリ, フジミノリ同様に小さい密陽23号では, グルコース密度, キシロース密度は大きかったがリグニン密度はコシヒカリ, フジミノリと同様に小さかった. 実験に用いた7品種について, 細胞壁構成単糖密度, リグニン密度それぞれと曲げ応力との偏相関係数を求めた結果, リグニン密度と曲げ応力との間に偏相関係数0.81の高い相関関係が認められた. 以上の結果から, 稈の細胞壁構成成分の1つであるリグニンの密度は, 耐倒伏性と関係する稈の曲げ応力の品種間差異をもたらす主な原因であると推察した.

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