システム・ダイナミックス(SD)は、考察中のシステムに関する政策の発想および事前評価に対して極めて有効である。しかし、現在のSDの文献はこの分野の本質的な数学を適切には表わしていないし、システムのモデル化の際に判断に導く原理を明確にしていない等、理論的側面に問題点が多い。本論文ではSDの良さを保存しつつそのような問題点の解消を行う。すなわち、フォレスターらの得たSDの知見は正当かつ重要であるが、その表現形式およびそこに現われた概念はあまりにも素朴であるとしてSDの現状を把握する。そして公理的方法により、SDにおける基本的な概念を明断にしたり、基本的な命題を証明したりする。本論文の第2章ではSDで考察するシステムの基本特性や基本様相を明確にし、第3章においてSDの公理体系を集成する。SDにおいてはシステムの「動的挙動」や「鈍感さ」という概念が核心となるが、第4章ではこれらの概念をカタストロフィー理論でいう形態や構造安定性として厳密に定義し、第5章で形態の構造安定性、第6章で形態の分類、第7章で形態の不連続な変化などについて数学的に証明または論述する。さらに第8章では、SDの文献において素朴な形式で述べられていた重要な知見が、本論文の方法で厳密に定式化され、証明されることが示される。以上の結果、公理的方法によりSDの理論体系を確実に構築する端緒が開かれたと思われる。