産業衛生学雑誌
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総説
職業性末梢神経障害の研究
平田 衛
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2023 年 65 巻 3 号 p. 117-124

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抄録

目的:職場における職業性末梢神経障害OPDに関する研究について,著者の経験に基づき概観し,今後のOPDの見通しを示す.方法:4種の化学物質による慢性中毒によるOPDの症例,レーヨン製造工場における二硫化炭素CS2に曝露労働者の末梢神経への影響を末梢神経伝導速度NCVによって調べた断面疫学調査,振動障害VSと非特異的頸肩腕障害CBDの患者の末梢神経障害を末梢神経伝導速度NCVによる調査について述べる.結果:無機鉛,タリウム,n-ヘキサン,臭化メチルによる4症例について,症状所見,曝露を示してその関係を述べた.断面疫学調査により,約 5 ppmのCS2曝露労働者において上肢の神経伝導速度NCV低下がない一方,下肢のNCV低下が示され,より高濃度の曝露労働者では上肢のNCV低下が示された.VS患者においては,手の3神経のうち複数神経への影響 = 多巣性神経障害が観察された.CBD患者では,示指の橈骨神経の知覚神経伝導速度SCVの低下が示された.結論:症例,患者調査,疫学調査によって職業性末梢神経障害の諸相が示された.しかし,化学物質による健康障害の漸減から最近の職場ではOPDは減少していると推定される.他の要因を含むOPDの課題は,毒性が不明な化学物質の導入などにより,鑑別診断を含めて将来も残るであろう.

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