2006 年 33 巻 3 号 p. 97-104
本研究は,在宅障害高齢者90名(平均年齢83.1歳)を対象に,注意力と身体機能をベースライン調査として評価し,転倒の有無を1年間にわたり前向き調査した。その結果,転倒を経験したのは22名,ニアミス(転倒しそうになった)経験は36名,どちらも経験しなかったのは32名であった。それら3群間の特性比較において,注意力の指標であるTrail making test-Part A(TMT-A)は,非経験群が最も高く,次いでニアミス経験群,転倒経験群の順序となり,転倒経験群は最も注意力が低下していた。身体機能の自己認識の逸脱は,転倒経験群とニアミス経験群が非経験群と比較すると有意に大きかった。身体機能に関する群間比較では足把持力,足関節背屈角度,歩行速度の3項目は,転倒経験群がニアミス経験群と非経験群より有意に低下していた。ロジスティック回帰分析は,転倒経験の有無がTMT-A得点,足把持力,足関節背屈角度の3項目と有意に関連していることを明らかにした。これらの知見から,在宅障害高齢者では身体機能の低下,とくに足把持力や足関節の可動性などの足部機能の低下が転倒発生の危険因子であることに加え,注意力の低下も転倒を引き起こす重大な要因となっていることが実証された。