表情表出時の頬部運動の遅延が視覚知覚に及ぼす影響

黒住 元紀
瓜生田 翔歩
蒲池

誌名
電子情報通信学会論文誌 D      No.3    pp.167-174
発行日: 2022/03/01
早期公開日: 2021/11/01
Online ISSN: 1881-0225
DOI: 10.14923/transinfj.2021PDP0012
論文種別: 特集論文 (学生論文特集)
専門分野: ヒューマンコンピュータインタラクション
キーワード: 
視覚,  顔の運動,  魅力,  

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あらまし: 
人間の顔は個人の年齢や性別などの属性や健康状態,魅力をはじめとした社会的な印象を与える情報源である.顔は日常生活において表情変化,発語,瞬きなどを通して絶えず動いている.また,近年のCOVID-19感染拡大は動画メディアやWeb会議を通して他者の動的な顔と接する機会を増加した.しかしながら,従来の顔の印象に関する研究の多くは静的な顔を対象としており,人間が顔の運動を知覚する感度や運動が年齢や魅力といった個体の印象へ及ぼす影響は不明である.これまでに,加齢に伴う皮膚物性の変化が表情表出時の頬の皮膚の運動に遅延を生じさせることがわかっている.そこで本研究では,人間が頬部運動の遅延を知覚する感度を調べ,更に遅延から受け取る年齢,魅力,感情(快不快,活動性)の印象に及ぼす影響について実験的検討を行った.結果,人間は加齢で生じる頬の運動の遅延を知覚可能であり,特に顔情報処理の特性である全体的処理において鋭敏に働くことが確認された.更に,頬の運動の遅延は顔の魅力度を低下させることが確認された.この結果は,加齢に伴う皮膚物性の変化によるごくわずかな皮膚の運動変化が,顔から受け取る印象に影響を与えることを示唆するものである.本知見から,より美しく魅力的でありたいという人々の願いに対して,化粧品やヘルスケア産業からの身体的な改善方策や情報通信産業からの身体的制約によらない印象改善方策の提供が可能となると考えられる.