宝石学会(日本)講演会要旨
平成21年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
セッションID: 11
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チベットおよび内モンゴル産アンデシンの研究
*阿依 アヒマディ
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抄録

 アンデシンは長石グループの鉱物で、2002年以降知られるようになった比較的新しい宝石変種である。最近になって、宝石業界ではこのアンデシンの色の起源(天然か拡散加熱処理か)と産出地の真偽(真の原産地はどこか)に関心が寄せられている。筆者はこの問題の解決の一助とするため2008年10月と11月に、中国のチベットと内モンゴル自治区の鉱山を調査した。
 今回の調査の結果、チベットでは赤色(稀に緑色)のアンデシンが実際に産出されていることを確認できたが、内モンゴル自治区の固阳県では、産出するアンデシンの色相は淡黄色のみで、これらは拡散加熱処理(人為的な着色)の原材に利用されているこという確かな情報が得られた。
 チベット産のアンデシン鉱山
 チベットのアンデシン鉱山は、チベット自治区第二の都市であるXigazê (Shigatse)から70kmほど南に離れた地域に位置しており、平均海抜が4,000mを超える高地であるため酸素濃度は低く、冬季は雪に覆われるため、採掘は4月から11月に限られている。
 この地のアンデシンは第三紀の砂礫岩や白亜紀の泥質砂岩などの二次鉱床から産出されるが、原岩は白亜紀の火成岩に由来すると推定される。河川の侵食や風化作用により結晶は丸みを帯びた形が多く、ほとんどがφ1cm以下である(最大でφ4cm程度)。採掘や選別作業には重機は使用されておらず、ほとんどが手作業で行われている。年間総産出量は700-800kgで、そのうち4-6%が宝石品質である。
 内モンゴルのアンデシン鉱山
 内モンゴルのアンデシン鉱山は首府であるフフホト(Hohhot)市から200kmほど西に位置する砲頭(Baotou)市の固阳県内に産出する中生代~新生代の砂礫岩の二次鉱床で採掘されている。分布は東西20kmあまり、南北はおよそ5kmの広大な範囲に及んでいる。ここでは重機による採掘が行われており、ひと月に10トンのアンデシンが産出され、年間の総産出量は100トンにも及んでいる。採掘されるアンデシンは、透明度の高い粒状結晶で0.3mm~50mmの大きさである。ほとんどは淡黄色で均一な色調である。赤色や緑色などの産出は確認できなかった。
 宝石学的研究
 チベット産の赤色アンデシンには顕著な双晶面や板状のラメラ構造、不均一な色むら、微細な板状自然銅などが観察される。内モンゴル産のアンデシンにも一定方向に配列した微細な双晶面や線状のフィッシャー、成長管が観察された。
 蛍光X線分析では両産地において主元素のSi、Al、Ca、Na以外に微量元素としてK、Mg、Ti、Fe、Srが検出され、チベット産にはこの他にCuが検出された。
 LA-ICP-MS分析では主元素以外に16種類の微量元素が検出されたが両産地における優位な差異は認められなかった。Cuについてはチベット産の赤色アンデシンで300~600ppm、モンゴル産の淡黄色アンデシンで3ppm以下であった。
 今後の研究課題
 現在、チベット産の天然赤色アンデシンと市販されている中国産赤色アンデシン(拡散加熱処理?)を比較研究しているが、有意な鑑別上の差異は見出せていない。また、内モンゴル産の淡黄色アンデシンを拡散加熱処理したサンプルを入手し、調査を開始している。これらの結果についても合わせて報告する予定である。

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