近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 35
会議情報

ペーパードライバー教習を利用し自動車運転が可能となった脳卒中の一症例
*岩間 一志田中 智章
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】自動車運転を希望する脳卒中患者の支援 【方法】自動車運転を希望する脳卒中患者が、警察署にて自己責任で運転してよいと判断されたが、医師から自己責任では安全面に不安があるとの理由から運転が許可されなかったため、運転可否の客観的判定を得る目的で自動車教習所における福祉車輌でのペーパードライバー教習を利用した。理学療法士・作業療法士が教習車に同乗し運転指導員に患者の疾患に関する特性などを説明した。今回の経験から若干の知見を得たので報告する。 【説明と同意】患者に口頭にて発表の趣旨を説明し同意を得た。 【結果】医師より一旦は自動車運転が禁止されたが、ペーパードライバー講習で運転可能と判定された結果、運転が許可された。ペーパードライバー講習に理学療法士・作業療法士が同行し、運転指導員に患者の疾患に関する説明をしたことで運転指導員が疾患の内容を考慮した判定の一助となった。自費で片手運転用のハンドルノブを装着し退院直後から運転が可能となった。 【考察】自動車運転免許を保有する中途障害者が運転を希望する場合は警察署で臨時適正検査を受ける必要があるが、本症例は運転免許更新までの期間が短いという理由から、警察署で臨時適正検査は次回の免許更新時に行うこととされ、それまでの期間は「自己責任」で運転が認められた。しかし医師から自己責任では安全面に不安があるとの理由から運転が許可されず、患者本人も運転に不安があったため、運転の可否に関する客観的判定を得る目的でペーパードライバー講習の利用を提案した。先行研究では、脳卒中患者の3分の1は発症後の自動車運転が困難となり、3分の1は特にトレーニングを必要とせず運転に復帰し、残り3分の1は運転復帰のためにトレーニングが必要であると報告しているが、脳卒中患者が路上運転を再開するにあたって、その評価をどのように行うか標準的な方法は確立されていない。路上で実地運転を評価するのが最良の方法と指摘されているが、実地場所、安全の確保、自動車の改造や評価者の特別な訓練等、費用負担や責任の問題に直面し実施困難なことが多い。近年、身体障害者に対する自動車教習に積極的な自動車教習所が増える傾向にあり、福祉車輌を利用できることからも脳卒中患者の実地運転を安全に評価できる方法として積極的な利用が期待されるが、疾患に関する専門的な知識を有する運転指導員は少なく、教習そのものは疾患の特性に対応したものではなく、一般の運転技術の判定に準じているのが現状である。本症例の担当となった運転指導員も、疾患に関する特別な知識はなく、運転技術の判定は可能であるが疾患のことは分からないので専門家からその内容を説明されると疾患を考慮した判定がしやすいとの意見があった。今回、理学療法士・作業療法士が自動車教習所まで同行し、実際に教習車の後部座席に同乗して、運転場面を観察しながら運転指導員に患者の疾患に関する説明を行ったことで、運転指導員に医学的情報を提供したうえでの客観的判定を得ることができた。脳卒中患者の63%が入院中に運転に関するアドバイスを受ける機会が何もなかったとの報告もあり、このように少しの介入で運転が可能となりそうなケースでは医療関係者が患者と自動車教習所等の橋渡しとなることは有意義であると考える。現在、臨時適正検査は強制ではなく最終的には運転申請者の自己申告で行われるため、何らかの理由で検査を受けずに運転を行っていることも多く、現状ではそれらを拾い上げることは困難となっている。警察署や運転免許センターからは、医療関係者側で臨時適正検査が必要と思われる場合には患者に検査を勧めるよう望まれているが、その必要性を客観的に判断する指標はなく医師の判断に委ねられている。患者の自動車運転に対する希望の実現と、事故を起こさない安全な運転のために、自動車運転適正検査の標準化が必要であることを感じた。 【理学療法研究としての意義】実際の場面を通じた評価の重要性を考えると、退院前訪問指導として自宅を評価するのと同様に、職場、公共施設、交通機関の使用時、通学・通勤時などにも同行して評価できる枠組みが広がれば、より患者のニーズにきめ細かく対応でき社会復帰を促進する一助になるものと考える。

著者関連情報
© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
前の記事 次の記事
feedback
Top