近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 34
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端座位での下衣脱衣動作における下肢筋群の筋活動と関節運動について
治療用ベッド上と便座上での比較
*旅 なつき高木 綾一鈴木 俊明
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抄録

【目的】
 我々はこれまでの研究より、便座上での下衣脱衣動作ではベッド上に比べ体幹の前傾運動を大きく要すことを報告した。このことから、便座上にて脱衣側の坐骨と便座を離床し下衣を降ろすための空間を作るためには、非脱衣側前方への立ち上がり動作のような体重移動が必要であることが示唆された。そこで本研究では、立ち上がり動作に必要な下肢筋群の筋活動様式と関節運動に着目し、ベッドと便座という座面の違いが下衣脱衣動作に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
 健常成人9名(平均年齢26.4±2.0歳)を対象とした。課題動作はベッド上とポータブルトイレ上の端座位において右上肢で右下衣を坐骨より遠位に一回で脱衣し端座位に戻るまでとした。測定機器には筋電計(MQ‐8キッセイコムテック社)と3次元動作解析装置(ユニメック社UM-CAT)を用い、同期計測を行なった。筋電図の記録筋は、非脱衣側前方への立ち上がりに筋活動が必要と考えられる両側の大殿筋、中殿筋、大腿直筋、前脛骨筋とし、サンプリング周波数を1000Hzで測定した。さらに、3次元動作解析ではマーカーを両側の上後腸骨棘、大腿骨遠位1/3、大腿骨内外側上顆、腓骨頭、腓骨外果、第5中足骨頭に配置し、股関節の屈曲、内外転、回旋、下腿前傾の関節角度における時間変化を記録した。上記より得られた筋活動様式と関節運動を分析するために課題動作の相分けを行った。各相は先行研究(旅 2009)より、動作開始前の座位を先行相とし体幹左側屈開始から骨盤右挙上開始までを第1相、骨盤右下制開始までを第2相、骨盤右下制終了までを第3相とした。次にベッド上と便座上での各相における筋活動様式と関節運動について比較検討した。
【説明と同意】
 対象者には本研究の目的および方法を説明し同意を得た。
【結果】
 便座上の7例において、骨盤右挙上運動が開始して下衣を坐骨より遠位に脱衣し骨盤が座位の状態に戻るまでの第2相から第3相にかけて持続した両前脛骨筋と大腿直筋の筋活動の増大を認め、左足関節は背屈、左股関節は屈曲、右股関節は伸展運動が生じた。また、便座上の2例においては、両前脛骨筋の筋活動が第2相で増大し、軽減した後に第3相で再び筋活動の増大が生じた。それに伴い左足関節は第2相で背屈運動が生じた後、第3相で再び背屈運動が生じた。また、右足関節においては1例を除き第2相から3相にかけて背屈運動が生じた後、底屈運動が生じた。一方、ベッド上の5例においては、便座上と同様に第2相から第3相にかけて両前脛骨筋と大腿直筋の筋活動の増大を認めた。しかし、便座上のように第3相まで持続した活動は生じず、便座上に比べ筋活動は少なかった。また、4例においては上記の筋群のいずれかに筋活動増大を認めなかった。さらに、ベッド上の全対象者において両股関節、左足関節の関節運動は便座上と同様の運動がみられたが、右足関節においてはベッド上では第2相から第3相にかけて底屈運動が生じた。要するに便座上ではベッド上に比べ、第2相から3相にかけて両前脛骨筋と両大腿直筋の筋活動の増大とベッド上では生じなかった両足関節の背屈運動が生じるという特徴が確認できた。
【考察】
 ベッドと比較して便座上において、第2相から3相にかけて両前脛骨筋と両大腿直筋の筋活動の増大とベッド上では生じなかった両足関節の背屈運動が生じるという特徴が認められた。この要因を以下のように考察した。 端座位での下衣脱衣動作時の第2相から第3相では、脱衣側の骨盤を挙上させ殿部を座面から浮かすことで下衣を下ろすための空間を作る必要がある。端座位での下衣脱衣動作時において、便座上ではベッド上に比べ非脱衣側への骨盤の側方移動距離が制限される(旅 2009)。また、大腿直筋が体幹前傾に前脛骨筋が下腿の前傾に働くことで、重心を前下方に移動させる原動力となり、立ち上がり動作の殿部離床が生じる(後藤 2002)。このことから、便座での脱衣側の骨盤の挙上には、立ち上がり動作のような重心の前方移動を用いる必要があることが示唆される。さらに、殿部を座面から浮かし下衣を下ろす空間を作るために、脱衣側の股関節の伸展運動が生じたと考えた。 以上のことから、便座上にて脱衣側の骨盤を挙上するためには、非脱衣側への立ち上がり時の体重移動のように左大腿直筋、左前脛骨筋の活動により左股関節屈曲、左足関節背屈運動を生じさせる必要があると考えた。このことにより、体を左前方へ移動させることで左大腿部から左足底に支持面を作り右殿部の荷重量を軽減させたと考えた。
【理学療法研究としての意義】
 ベッド上にて下衣脱衣動作練習を行う際には、便座を想定し非脱衣側前方への立ち上がり動作の体重移動のように身体を前方へ移動させながらの骨盤の挙上運動が行なえることが重要となると考えられた。

著者関連情報
© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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