理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O4-6
会議情報

口述
温和な全身温熱刺激後の腎組織における平滑筋収縮タンパク質関連遺伝子の発現変動
渡 孝輔岩下 佳弘松村 光一松本 庄平前田 曙飯山 準一
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】

我々は腎亜全摘モデルマウスに対して温和な全身温熱刺激(mild systemic thermal stimulation:MTS)の反復がHsp27 の活性を伴い腎保護に寄与することを報告した(Iwashita, 2016)。しかしながら、腎血流動態や血球への作用等については今後の検討課題であった。飯山(2003)は、温水浸(深部体温:約1℃上昇、10分間)を実施した後の腎血流動態において腎血流量は増加するが、糸球体濾過量は増加しないことを報告した。この結果は腎血管へのshear stressを介した血管内皮機能の改善を期待できることを示した。そこで今回我々は直腸温を約1℃上昇を維持するMTSによってプレコンディショニングされた腎組織を用いて血管平滑筋収縮タンパク質関連遺伝子の発現変動について調査することを目的とした。

【方法】

C3H/Heマウス(雄, 9週齢)を無作為にControl群(n=4)、MTS群(n=4)に分け、MTS群は庫内温度39℃のインキュベーターに入れて15分間加温した後、35℃で20分間保温した。Control群は室温(25℃)と同じ温度設定で同様の操作を行った。MTS実施から6時間後に腎組織を採取した。52,145の遺伝子発現をmicro arrayを用いて網羅的に解析した。|Z score| >2 且つ ratio >1.5, ratio <0.66の変動を示した遺伝子を有意として検討した。

【結果】

MTS実施後の腎組織において、378の遺伝子で有意な増加を、470の遺伝子で有意な減少を示した。これらの遺伝子をDAVID v6.8 アノテーションツールにインポートし、Gene ontology(GO) 生物学的機能解析およびKEGG pathwayを活用した経路分析を行ったところ、Rho associated coiled-coil containing protein kinase 1(ROCK1)発現の有意な減少(Z score -2.55, ratio 0.65)、myosin light chain kinase (MYLK)発現の有意な減少(Z score -5.28, ratio 0.11)が認められた。

【考察】

MYLKにコードされるミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)は、ミオシン軽鎖(MLC)をリン酸化させて血管平滑筋を収縮させる。また、ROCK1にコードされるRhoキナーゼはミオシン軽鎖フォスファターゼを抑制してリン酸化MLCの脱リン酸化を減少させる。MTS実施後に認められたMLCK、ROCK1の減少は、腎血管拡張を示しており、飯山の結果を支持していると考えられた。

【結論】

MTS実施後はRhoシグナル経路介して血管平滑筋を弛緩させて、腎血流を増加させることが示唆された。

【倫理的配慮,説明と同意】

本実験は所属大学実験規則に従い、動物実験委員会(16-010)の承認を得て実施された。

著者関連情報
© 2019 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top