理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O10-1
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口述
生体電気インピーダンス法によるPhase angleと高齢者の転倒発生の関連
-前向きコホート研究ー
上村 一貴山田 実岡本 啓
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抄録

【はじめに、目的】

生体のリアクタンス・レジスタンスに応じた、電流と電圧の位相差(ずれ)を示すPhase angle(PhA)は、細胞の生理的機能レベルを反映すると考えられ、がん患者や血液透析患者の予後指標・栄養指標としての有用性が期待されている。また、PhAは加齢に伴って低下し、高齢者ではサルコペニア・フレイルとの関連性が報告されているが、要介護状態を招く重大な健康アウトカムである転倒との関連は明らかでない。本研究の目的は、高齢者のPhAと前向きに調査した転倒発生の関連を検討することであり、理学療法評価におけるPhAの意義に関する基礎的資料を提供することが期待される。

【方法】

対象は、65歳以上の高齢者向け測定会への参加者のうち、要介護認定者、Mini–Mental State Examinationで18点未満者、心臓ペースメーカー等により生体電気インピーダンス法による測定が不可のものを除いて、6か月間の追跡調査に回答の得られた205名(平均72.6歳、男性73名)とした。マルチ周波数体組成計(MC-780A, タニタ製)を用いて、50kHzにおけるPhAを測定した。男女それぞれにおけるPhAの三分位群(T1~3)から、最もPhAが低い群(T1)とそれ以外(T2/3)にカテゴリー化した。また、Asian Working Group for Sarcopeniaのアルゴリズムを用い、筋量と身体機能(握力または歩行速度)の両方の低下を有するものをサルコペニアとして判定した。転倒調査は、ベースライン時に記録表を配布し、転倒発生時に状況を記録するよう依頼した。記録表は6か月間の追跡期間終了後に郵送にて回収した。統計解析は、対応のないt検定およびx2検定を用いて、各測定項目について、T1とT2/3を比較した。さらに、Cox比例ハザード分析により、PhAによるカテゴリーが追跡期間中における1回以上の転倒発生に及ぼす影響を単変量および多変量(年齢・性別・サルコペニアで調整)モデルで検討した。

【結果】

中央値181日間の追跡中に24名(11.7%)で転倒が発生した。T1は、T2/3に比較して、年齢が高く、サルコペニアの割合が多かった(p<0.05)。PhAが最も低いT1の転倒発生に対するハザード比は、T2/3をリファレンスとすると、単変量(HR[95%CI]) = 2.51 [1.13–5.60])、多変量(2.46 [1.07–5.68])のいずれのモデルにおいても有意であった。

【考察】

PhAが低い群では、年齢・性別・サルコペニアによる調整後も、約2.5倍転倒リスクが高かった。回帰式から間接的に推定される筋量や体水分量とは異なり、PhAは生体電気インピーダンス法による測定値から直接的に算出される指標であり、栄養状態や生命予後だけでなく転倒リスクを反映する、高齢者の総合的な健康指標として応用できる可能性がある。

【結論】

PhAは高齢者の転倒発生と独立した関連性がみられ、転倒予防のための理学療法評価におけるPhAの有用性が示唆された。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に則り、対象者に研究の目的や検査内容、個人情報の保護について口頭と書面にて十分に説明した上で同意を得た。富山県立大学「人を対象とする研究」倫理審査部会の承認を受けて実施した(番号:第H29-1号)。

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© 2019 日本理学療法士協会
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