理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O9-4
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口述
運動課題に伴う予測が運動主体感および運動パフォーマンスに与える効果
林田 一輝益池 章裕西 祐樹宮脇 裕森岡 周
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抄録

【はじめに、目的】

近年,自己身体運動への意識経験である運動主体感(sense of agency: SoA)と運動制御の関連性が調査されている.これらには運動に伴う感覚とその予測誤差を検出するコンパレータモデルの関与が想定されている.Vindingら(2013)は運動に伴うトップダウンな予測がSoAを修飾することを明らかにしたが,ボトムアップに惹起される予測がSoAに与える影響は不明である.本研究はボトムアップな予測の有無がSoAに与える影響に加えてSoAと運動制御の関連性を調査することを目的とした.

【方法】

被験者は健常大学生30名とした.SoAを定量的に評価する手続きであるIntentional Binding(IB)課題をLabVIEW(National Instruments)を用いて作成した.被験者にPC画面上で水平方向に反復運動する円形オブジェクトをキー押しによって画面中央で止めるよう指示した.円形オブジェクトと画面中央との誤差(エラー)を座標データに基づいて計測し運動パフォーマンス(MP)の指標とした.また,円形オブジェクトを止めるキー押しから数100msec遅延してビープ音が鳴るよう設定し,その遅延時間を推定させた.推定した遅延時間と実際の遅延時間との差を抽出した(IB値)が低いほど,SoAが強く惹起されていることを意味する(Haggard,2002).課題は10ブロック(18試行/ブロック)実施した.予測をボトムアップに惹起させるために円形オブジェクトの速度変化に法則性があるよう設定した.なお,被験者には法則性があることは教示せず,法則性に気づいたかどうかを全課題終了後に聴取した.30名の被験者をボトムアップな予測の惹起,すなわち法則性への気づきがあったnotice(N)群と,気づきがなかったno notice(NN)群に分けた.エラーとIB値の群間比較をt検定,エラーとIB値の関連性をSpearman順位相関係数にて解析した.解析はSPSSver.20を用い,有意水準は5%とした.

【結果】

N群が18名,NN群が12名であった.エラーとIB値は,NN群と比較してN群の方が有意に小さかった(p<0.05).エラーとIB値の間に有意な正の相関を認め(r=0.49, p<0.05),SoAが高いほどMPが高くなり,N群ほどその傾向が強かった.またNN群は徐々にIB値が高くなる(すなわちSoAの低下)傾向を示した.

【考察】

ボトムアップな予測の惹起がSoAおよびMPを向上させ,加えてSoAとMPに関連性があることが示された.予測誤差がSoAに影響することから,気付きに伴う予測誤差がSoAを高め,MPの向上に影響したことが考えられる.一方で,NN群では予測と運動の結果を一致させることができず,徐々にSoAが低下したと考えられる.理学療法において運動課題を提供する際,運動を予測させ自ら気付かせるような環境設定が重要になることが示唆される.

【結論】

ボトムアップな予測の惹起がSoAを向上させ,運動パフィーマンスを高めたことが示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき参加者には書面をもって本研究内容,本研究への参加協力の自由と拒否権について,また研究データを公表する場合のプライバシー及び個人情報の保護について十分に説明し,同意を得られた参加者からは同意書への署名を得た.

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© 2019 日本理学療法士協会
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