理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O8-1
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口述
経頭蓋交流電気刺激による運動学習能力の変調
菅田 陽怜八木 和広矢澤 省吾長瀬 泰範池田 尊司松下 光次郎川上 健二河上 敬介
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抄録

【はじめに、目的】

近年、一次運動野のα、βおよびγ帯域の脳律動をターゲットとした経頭蓋交流電気刺激(tACS)が運動機能を変調することが明らかにされつつある。一方で、tACSによって生じる運動機能の変化と脳機能との関連を詳細に調べた研究は無い。そこで、本研究では、tACSによる運動学習能力の変化と脳機能との関連について脳磁図を用いて詳細に調べることとした。

 

【方法】

52名の健常成人が本研究に参加した。被験者はそれぞれ、10Hz、20Hz、70HzでのtACS群と偽刺激群に無作為に振り分けられた。各被験者の運動学習能力を評価するために、tACS介入前後に系列反応時間課題(SRTT)を行い、その際の脳活動を脳磁図(ELEKTA, Neuromag)にて計測した。tACSの刺激電極は左の一次運動野、参照電極は右前頭部に配置し、1mAの強度で10分間刺激を行った。運動解析ではtACSに伴うボタン押し反応時間の変化を算出し、脳律動解析では空間フィルタ解析とヒルベルト変換を用いて、tACS前後の事象関連同期(ERS)および事象関連同期(ERD)の変化を調べた。

 

【結果】

偽刺激群と比較して70Hz-tACS群でtACS介入後に有意なボタン押し反応時間の短縮が認められた(p < 0.05)。また、脳律動解析の結果、70Hz-tACS群において刺激後のβ帯域のERDの有意な減少が認められた(p < 0.05)。

 

【考察】

運動学習の際には一次運動野における興奮性シナプスと抑制性シナプスの活動バランスの可塑的変化が生じることが知られており、これらの変化にはβおよびγ帯域の脳律動変化が関与することが指摘されている。本研究おいては、γ帯域をターゲットとした70Hz-tACS群において運動学習能力の向上が認められ、またその際のβ-ERDに有意な変化が認められた。近年、tACSは周波数特異的に脳律動の変調を引き起こすという報告がある一方、刺激周波数とは別の周波数成分に影響を及ぼす(cross-frequency modulation)ことも報告されている。本研究では、70Hz-tACSによってβ帯域の脳律動が変調されたことから、cross-frequency modulationによって興奮性シナプスと抑制性シナプスの活動バランスに可塑的変化が生じて、運動学習能力が変調された可能性がある。

 

【結論】

70HzでのtACS介入が偽刺激と比較して有意な運動学習能力の向上を示した。脳卒中患者など、運動機能障害を有する患者へのリハビリ介入前に70HzでのtACSを行うことでリハビリの効果を更に向上できる可能性がある。

 

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究計画は全て、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従って大分大学医学部倫理審査委員会による倫理審査を受け、承認を得たうえで実施した。研究計画は全てヘルシンキ宣言に則り、被験者には研究目的・方法・研究によって起こり得る事象を文書により説明し、文書にて同意を得たうえで実験を実施した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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