理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1-P-B-3-5
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ポスター演題
腰椎椎間板ヘルニアとヘルペスウイルスによる症状が混在し、症状軽減に難渋した症例
―腰椎骨盤リズムとランニングフォームに着目して―
中村 由佳
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抄録

【症例紹介】

腰部骨盤帯の疼痛に対する理学療法では、下肢痛の訴えは多く、その要因は腰部神経症状や他部位からの関連痛が混在し、これらの原因を特定することが困難なことを度々経験する。今回、L5/S1の腰椎椎間板ヘルニアとヘルペスウイルス(以下、ヘルペス)により、腰部痛・下肢症状が混在した症例を担当する機会を得た。症例は17歳男性で陸上競技部(長距離)に所属。平成29年9月頃に誘因なく、ランニング中に腰部痛と左下肢後方に疼痛と痺れが出現。10月に当院へ受診し、L5/S1の腰椎椎間板ヘルニアと診断され、同月理学療法開始。初めは、症状寛解傾向にあったが、同年12月頃に腰部痛の増悪と両下肢後方に症状を認め、再診にて、X-P所見で腰仙部にヘルペスが潜伏しているのが認められた。主たる疼痛は座位や立位の同肢位保持や体幹前後屈、ランニング後にも症状が誘発するようになり、上記動作は全てNumerical Rating Scale(以下、NRS)7~8/10の鋭痛であった。仙骨部硬膜外ブロック後は、一時的に症状軽減を認めるが持続はせず、非ステロイド性抗炎症薬も服用していたが効果は認められなかった。今回の受傷以前に特記すべき既往歴はなかった。

【評価とリーズニング】

神経学的所見として、両側にL5~S1領域に疼痛と痺れが生じ、体幹前後屈で症状誘発するが再現性はない。MMTでは体幹筋4、左大臀筋、中臀筋4-の筋力低下を認め、L5神経根支配の筋力低下、アキレス腱反射の減弱、感覚鈍麻は認めなかった。大腿神経伸張テスト、Straight Leg Raisingテスト(以下、SLR)は右60°、左45°の陽性であった。坐骨神経に沿った圧痛や梨状筋の圧痛、圧迫による放散痛は認めなかった為、これらの評価により坐骨神経由来は否定的であると判断した。骨盤帯のアライメントは左寛骨インフレア・後方回旋位。関節可動域は、腰椎はL1/2~L4/5に低可動性、L5/S1に過可動性を認め、両股関節は100°で疼痛が出現し、制限を認めた。触診では脊柱起立筋、腸腰筋、大殿筋、ハムストリングスに過緊張を認めた。小林らは、ランニングフォームにおいて距骨下関節の運動に連動して、下腿と膝では回外運動に伴い足部に対する下腿回外と膝内反が、また回内運動に伴い下腿内旋と膝外反がおこる。これらの運動は運動連鎖によって近位関節に波及し、股関節、体幹の運動に影響していくと報告がある。症例はFoot Strike(以下、FS)で足部が正中位寄りに接地し、距骨下関節の回外位が強く、Mid Supportで、外側接地の反動として距骨下関節の回内運動が強くなり、上行性運動連鎖より股関節内旋をとり、長期に及ぶ下位腰椎の過可動性を必要とされた。股関節外旋筋の出力を高め、骨頭の安定化を得る事で、股関節の可動域拡大とFSの接地位置への変化が図れ、腰椎への過剰な負担が減る事で、症状の軽減が期待出来ると考えた。

【介入と結果】

Gaillietらは腰椎骨盤リズムにおいて、全脊柱屈曲の75%は腰仙部で可動すると報告している事から、腰仙部に着目をおいてアプローチを行った。骨盤帯の静的・動的なアライメント調整の為、仙結節靭帯の伸張、脊柱起立筋、腹筋群の活動の促通を行った。また、骨頭の安定化を図り、股関節外旋筋の強化を行ったことにより、体幹と下肢を連結する股関節の支持性が高まり、股関節内旋方向の運動が軽減され、距骨下関節の回外が軽減した為、FSの接地位置が正中位から骨盤直下に位置し、下位腰椎の負担も軽減され、ランニング中の腰部痛はNRS0~1/10まで改善された。しかし、安静時とランニング後の腰部痛・下肢症状の改善は得られなかった。

【結論】

本症例は、根底にヘルペスと器質的な病態を有しているため、根本治療には至らず、症状再発の可能性が高いと考える。このような症例に対し、病態の理解を促し、自己管理を促すことが症状再発予防に必要になると考える。また、腰部疾患に対する理学療法は、症状の鑑別のみならず仙腸関節、股関節も含めた障害像と関連性を明確にし、アプローチを行う必要性があることを再確認できた。

【倫理的配慮,説明と同意】

発表に際して本症例にはその意義を十分に説明し、同意を得ている。

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