理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-B-20-3
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重度右片麻痺、高次脳機能障害を呈した症例に対し積極的に立位、歩行練習を行った一症例
~移乗動作の介助量軽減を目指して~
谷 真吾清田 康介武田 好史池田 裕哉
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抄録

【はじめに・目的】

「脳卒中治療ガイドライン2015」において、発症後早期の患者では、より効果的な能力低下の回復を促すために、訓練量や頻度を増やすことが強く勧められている。しかし、重度運動麻痺や高次脳機能障害が原因で介助量が大きく、立位や歩行の訓練量や頻度を増やすことが困難な例が少なくない。本症例においても左脳梗塞により重度右片麻痺、失語症、右半側空間無視(以下右USN)を呈しており介助量が大きかった。そこで今回、長下肢装具(以下KAFO)を使用し立位や歩行の訓練量や頻度を増やして介入した結果、移乗動作に改善がみられたため以下に報告する。

【症例紹介】

70歳代後半の男性。現病歴は、発熱によりA病院に入院して4日後、右片麻痺出現、発語困難となる。左中大脳動脈M1領域の脳梗塞と診断。49病日に当院入院。失語症により簡単な指示やジェスチャーで動作指示のインプットは入る。右側への注意が向かず、頭頚部は常に左側を向いている。FIMは19/126。食事は3食経鼻経管栄養でADLは全介助レベル。BRSは上肢Ⅱ、手指Ⅱ、下肢Ⅱ~Ⅲ。SIASは18/76。筋緊張は、麻痺側股関節周囲筋と下部体幹筋は低下、非麻痺側上下肢筋は高緊張。起立や立位保持では非麻痺側上下肢の外転が強く、非麻痺側下肢に重心が乗れなかった。また移乗動作の方向転換では非麻痺側下肢のステップ時に麻痺側下肢の膝折れがみられたため介助量が大きかった。

【経過】

KAFOなしでは立位や歩行の介助量が大きく十分な訓練量の確保ができなかったため、KAFOを使用して立位練習や歩行練習を実施した。立位練習では、立位アライメントを修正しながら非麻痺側下肢に重心が乗るように調整し、非対称性の軽減を図った。歩行練習では、2人介助で実施し、徐々に歩行距離を増やした。治療開始から4週間後、移乗動作が重度介助→軽介助で可能となり、FIMの車椅子・ベッド間の移乗が2点→4点へと向上した。

【考察】

岡庭らによると「中大脳動脈が障害されると、運動麻痺や感覚障害、支配領域が広いため、さらに多彩な症状が出現する。」と述べている。本症例においても、異常筋緊張(運動麻痺)、感覚障害、右USNによる姿勢アライメントの変位を呈していた。その影響から体幹、麻痺側下肢の支持性低下、立位の非対称性が著明となり移乗動作の介助量が大きくなっていると考えた。石神らによると「重度の脳血管障害患者にKAFOを使用することについて、①股関節周囲筋の筋力強化につながること、②立位姿勢の継続で体幹筋の強化や、③立位姿勢バランスの再教育も行いやすい。」と述べている。本症例においても、KAFOを使用して立位や歩行の訓練量や頻度を増やし、麻痺側股関節周囲筋や体幹筋の強化を図ったことで、体幹、麻痺側下肢の支持性と立位バランスが向上したと考える。その結果、立位の非対称性が軽減し、非麻痺側下肢のステップも軽介助で可能となり、移乗動作の介助量が軽減したと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、発表に関して、患者様とご家族様に十分な説明を行い同意を得た。

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© 2019 日本理学療法士協会
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