理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-03
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セレクション口述発表
廃用性筋萎縮予防としての短時間伸張運動の効果 〜介入時間および長軸部位による相違の検討〜
石川 琢麻上野 勝也森 千紘山崎 俊明
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抄録

【はじめに、目的】近年、廃用性萎縮筋に対する伸張運動の萎縮抑制効果に関する報告が多くなされている.しかしその一方で,伸張運動などの機械的刺激が筋線維損傷を引き起こすことも報告されている.そこで本研究では,廃用性萎縮筋に対して負荷量一定の条件で異なる短時間の伸張運動を行い,筋萎縮の指標として筋線維横断面積を用い,筋線維損傷の指標として壊死線維、中心核線維の発生頻度を比較することで,萎縮筋に及ぼす影響を長軸部位別に調べることを目的とした.【方法】対象は8 週齢Wistar系雄性ラット(n=30)の右側ヒラメ筋で,これらを対照群(C群:n=7),16 日間の後肢懸垂により廃用性筋萎縮を惹起する群(H群:n=8),後肢懸垂期間中に毎日10 分間の間歇的伸張刺激を最初の1 日を除く15 日間加える群(LST群:n=8),後肢懸垂期間中、同様に5 分間伸張刺激を加える群(SST群:n=7)の4 群に振り分けた.間歇的伸張運動は,体重の100%相当の負荷にて行った.実験期間終了後,各群の対象筋を採取し,筋長の25%(近位部),50%(中央部),75%(遠位部)部位における切断面の凍結横断切片を作成した.その後Hematoxylin ‐eosin染色を実施し,筋線維横断面積(Cross ‐Sectional Area:以下CSA)を各筋200 本以上測定し,分布(ヒストグラム)を求めた.また,各群,部位での病理所見の発生頻度を比較するため,筋線維横断切片全体での壊死線維,中心核線維数を計測し,全体の数に対する割合を算出した.各群のCSA及び壊死線維,中心核線維割合の比較は一元配置分散分析を行い,有意差が見られた場合,Tukeyの方法による検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は本学動物実験委員会の承認を得て行った.【結果】CSAの結果は,LST群の遠位部,SST群の中央部,遠位部において,HS群と比較し有意に高値を示した.LST群の中央部では,H群と比較し有意に低値を示した.筋線維横断面積分布では,LST群の遠位部,SST群の中央部,遠位部においてH群に比べ頂点が面積の大きい方へと偏位しており,C群により近かった.LST群とSST群の比較では各部位においてSST群のほうが面積の大きい方へと偏位していた.壊死線維割合では,各群,部位間において有意差はみられなかったが,LST群で多い傾向がみられ,近位<中央部<遠位部の順に多かった.中心核線維割合では,SST群の遠位部のみがH群の遠位部と比較し,有意に高値を示し,全体としてもSST群が大きい傾向を示した.【考察】本研究では,廃用性萎縮筋に対する萎縮抑制効果は,SST群により大きく,近位部より遠位部の方が大きかった.埜中らによれば,筋線維に壊死が生じてから4 〜5 日で中心核をもつ小径の線維が確認され,20 日目には中心核は存在するがほぼもとの大きさに回復するとされている.本研究における壊死線維割合はLST群に多い傾向が見られ,中心核線維割合はSST群に多い傾向が見られた.このことから,LST群では伸張運動により筋線維損傷が断続的,もしくはより遅い時期に引き起こされ,本研究での実験期間では筋線維損傷から筋線維が再生するまでに至らなかった可能性が示唆された.一方,SST群は筋線維損傷程度が比較的少ないか早期に回復した可能性が示唆され,廃用性筋萎縮の抑制により効果的であったと考えられた.また,萎縮抑制効果は遠位部ほど大きく,筋線維損傷も遠位部の方が多くみられたことより,本研究の伸張運動方法では近位部より遠位部により大きな負荷が生じると考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究では,体重相当の負荷条件下5 分間という短時間介入で,廃用性筋萎縮抑制効果がみられた.また,筋の長軸部位によりその効果が異なることから,廃用性萎縮筋に対する伸張運動には適切な運動方法(時間・負荷量・部位)があることが示唆された.このことは,理学療法の基礎データとして有用である.

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© 2013 日本理学療法士協会
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