理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-07
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セレクション口述発表
地域高齢者の脊柱可動性と歩行の関係性および歩行指導の即時効果の検討
榎 勇人石田 健司細田 里南芥川 知彰奥宮 あかね上野 将之室伏 祐介近藤 寛田中 克宜高橋 みなみ
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抄録

【はじめに、目的】これまでの我々の調査では,体幹姿勢がNormalな高齢者は,Kyphosisなどの群に比べ歩幅や1 歩時間が有意に大きく(Ishida K 2004,2005),さらに歩幅を意識させた簡単な歩行指導により床反力鉛直成分(以下Fz)が即時的に1 峰性から2 峰性に改善した.そこで,高齢者の歩行は体幹姿勢に加え脊柱可動性と関係性があるのではないかという仮説のもと,今回高齢者の脊柱可動性と歩行の関係を調査すると共に,先行研究の歩行指導に加え体幹姿勢を意識させた指導を行い,即時効果のある歩行指導の検討を行った.なお本研究は,日本学術振興会科学研究費の助成を受けて行った(課題番号:23700604).【方法】高知県室戸市の特定健診に参加した60 歳以上の高齢者の方で,杖などを使用せず歩行をしている282 名を対象とした.男性95 名,女性187 名,平均年齢69 ± 6 歳(60-94).脊柱可動性の評価は,Index社製Spinal mouseによって,立位での直立姿勢およびできる限りの前屈・後屈姿勢における脊柱が矢状面にて垂線となす角度を計測した.歩行評価は,ニッタ社製Gait scanを用いて,通常歩行および「歩幅を少し広くして,踵から着くように歩いて下さい」という歩幅を意識させた歩幅指導と「胸を張って背筋を伸ばし,前を向いて歩いて下さい」という体幹姿勢を意識させた体幹指導の3 条件下における,歩幅,1 歩時間,歩行速度,Fzの2 峰性の有無を評価した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,高知大学医学部倫理審査にて承認を受け,対象者には書面にて研究の趣旨を説明の上,署名により同意を得て行った.【結果】脊柱可動性の平均は,直立2.9 ± 4.9°,前屈96.2 ± 18.3°,後屈20.2 ± 10.5°であった.また通常歩行時の平均歩幅6.06 ± 0.86cm,1 歩時間0.54 ± 0.05sec,速度1.22 ± 0.22m/secであった.また53 名にFzの2 峰性が認められなかった.脊柱可動域と通常歩行データとの相関性をPearsonの相関係数にて検討すると,直立角度が歩幅と歩行速度と有意な負の相関関係(歩幅r=-0.325,速度r=-0.293,p<0,01)を示し,後屈角度が歩幅と歩行速度と有意な正の相関関係(歩幅r=0.386,速度r=-0.361,p<0,01)を示した.さらにFzの2 峰性の有無を従属変数とし,通常歩行データを独立変数として変数増加法尤度比多重ロジスティック回帰分析を行った結果,Fzに影響を及ぼす変数は歩幅(偏回帰係数0.718,オッズ比2.050 倍,1.415〜2.968),1 歩時間(偏回帰係数-18.782,オッズ比0.000 倍,0.000 〜0.000)が選択され,モデルχ2 乗検定も各変数も有意(p<0.01)であった.次に歩行指導の即時的効果を1 要因分散分析で検討した結果,歩幅と1 歩時間では指導間の全てにおいて有意差(p<0.01)が認められ,歩幅指導が最も増加した.また歩行速度では,通常歩行に比べ歩幅・体幹指導共に有意に増加したが,両指導間には有意差は認められなかった.さらに,Fzの2 峰性が認められなかった53 名における歩行指導効果をχ2 乗検定にて検討した結果,歩幅指導は31 名,体幹指導は33 名に2 縫性が出現したが,両者間に有意差は認められなかった.【考察】Fzは高齢者の歩行状態を表す力学的指標として有用とされ,2 峰性の維持は,効率の良い歩行つながり重要である.今回,脊柱の直立・後屈角度が通常歩行の歩幅・歩行速度と相関性を示し,さらにFzの2 峰性に,特に歩幅の増大が関係することが明らかとなった.直立角度はKyphosisの程度を表しているため,今回の結果からKyphosisを予防し脊柱後屈角度を維持改善すれば歩幅の増大につながり2 峰性が維持できることが示唆された.また歩行指導の結果では,歩幅指導が最も歩幅が増大したが,1 歩時間も増加した結果,歩行速度では体幹指導と有意差がなかった.さらにχ2 乗検定によるFzの2 峰性改善の検討では,両指導共に半数以上が改善したが有意差はなく,歩幅と体幹姿勢を意識させた指導は,同程度の即時効果があった.【理学療法学研究としての意義】本研究は,地域高齢者の歩行能力の維持改善につなげる目的で,歩行に関係する因子を求め,さらに歩行指導の即時効果を検討した.その結果,Kyphosisの予防および脊柱後屈可動域を維持改善することで,歩行能力が維持改善されることが示唆され,さらに歩行指導の即時効果も解り,高齢者の歩行能力の維持改善に寄与するものと考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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