理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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不安定靴歩行における血中IL-6動態
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p. Eb1262

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抄録

【目的】 Pedersenらによって,骨格筋は単なる運動器ではなく,収縮によってInterleukin-6 (以下;IL-6) を多量に放出する内分泌器官であることが明らかにされた.IL-6は炎症性サイトカインとも呼ばれているが,骨格筋の収縮により産生されたIL-6は脂肪酸の酸化促進や,筋細胞でブドウ糖の取り込みを促進すると報告されている.骨格筋からのIL-6の分泌には,運動時間と強度,運動に動員される筋肉量が必要である. 近年,歩行中の下肢の筋活動を高めるとして足底が丸い不安定な靴(以下;US)が注目されている.USは安定靴(以下;CS)と比べ,下肢の筋肉がより活動すると報告されている.このことから,CS歩行と比較しUS歩行では骨格筋の収縮により産生されるIL-6の量に変化を与え,血中IL-6濃度の増加量が異なる可能性がある.本研究の目的は,靴の違いによる歩行において血中IL-6濃度の変化を調査することである.【方法】 被験者は病歴と薬物を使用していない健常中高年女性8名(年齢;45.6±6.7歳,身長;159.9±4.4cm,体重;49.9±4.2kg,BMI;19.5±1.0kg/m2)であった.被験者は3-6日/週のジョギングを行っており,運動歴は4-24年であった.すべての被験者は実験前日から激しい運動,アルコールとカフェインを禁止した.実験当日,被験者は6時間前に食事を済ませ,水分は水のみとした.実験室到着後,被験者は30分の十分な安静座位を取り,その後,トレッドミル上にて時速6kmで60分の歩行を行った.運動指標は心拍数(以下;HR)140bpmとし,歩行開始5分目を目途に傾斜角度を3-12度で調整した.HRは一定になるように5分毎に測定した.採血は歩行前と歩行直後,歩行終了1時間後に医師が行った.採血管は遠心分離機で血漿・血清を分離させ,ELISA法により血清IL-6,TNF-αを測定した.またCRP,白血球数,単球,ヘマトクリット値,アドレナリン,ミオグロビン,クレアチニンキナーゼの測定も行った.靴は一般に使用されている運動靴(CS)と不安定な靴(US)を使用し,測定は1週間以上の間隔を空け実施した.結果の解析には2元配置分散分析の後,post hocとしてTukey’s testを用い,有意水準5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には実験の目的,方法および危険性を書面と口頭で十分に説明し,実験参加の同意を得た上で施行した.【結果】 両靴における運動時のHR(CS ; 142.4±8.1bpm,US ; 143.0±5.9bpm),傾斜角度は両群で同じであった.血清IL-6濃度は両群とも歩行前(CS;0.75±0.6 pg/mL,US;0.89±0.54pg/mL)と比較し,歩行直後(CS;2.68±0.94 pg/mL,US;2.86±0.67pg/mL)で有意に増加し,歩行終了1時間(CS;1.53±0.43,US;1.60±0.68pg/mL)後も増加していた.しかし,血清IL-6濃度は両群間で有意な変化を認めなかった.TNF-α,CRPは実験中を通して変化なく,両群間にも有意な変化を認めなかった.白血球数,単球,ヘマトクリット,アドレナリン,ミオグロビン,クレアチニンキナーゼは歩行直後に有意に上昇しており歩行前と比較し有意差を認められた.両群間には有意な変化を認めなかった.【考察】 60分歩行ではTNF-αとCRPに変化なく血中IL-6濃度の上昇を認めたが,靴の違いにおいて血中IL-6濃度に変化を認めないことが分かった.TNF-α・CRPの上昇がなかったことから,炎症によるIL-6産生は否定的である.よって,血中IL-6濃度は骨格筋から分泌された可能性が高いと考えられた.筋収縮に由来する血中IL-6濃度は,運動強度・時間と動員される筋肉量に関連があると言われている.今回の運動強度・時間は両靴で同じであった.よって,USとCS歩行による動員された筋肉量の違いは血中IL-6濃度の増加量に変化を与える程ではないと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,IL-6の観点から歩行負荷においては1時間以上が望ましいと考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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