理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
腹膜透析患者における身体活動の検討
─身体活動量と強度別の運動時間について─
若宮 亜希子平木 幸治堀田 千晴井澤 和大渡辺 敏大石 大輔櫻田 勉柴垣 有吾安田 隆木村 健二郎
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p. Da0321

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抄録

【はじめに、目的】 本邦の末期腎不全患者における透析患者数は約30万人と急増し、そのうち、腹膜透析(PD)患者数は約3%を占める。PDは、血液透析(HD)に比較して、残存腎機能の保護効果やライフスタイルの維持という観点より、高いQOLが保たれるなどの利点がある。その利点を生かすため、残存腎機能を有する慢性腎臓病(CKD)患者は、PD導入を優先的に考慮するよう推奨されている。残存腎機能の維持には、肥満、血圧、血糖、脂質異常の管理が重要であり、身体活動(PA)の向上は、これらを是正させることが知られている。しかし、末期CKD患者のPAに関しては、HD患者の報告は見られるが、PD患者の報告はきわめて少ない。本研究では、PD患者のPAの実態を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は、当院腎臓・高血圧内科外来通院中のPD患者30例(男性16例、平均年齢63.2±11.5歳)である。除外基準は、中枢性および運動器疾患を有する者とした。患者背景として、Body Mass Index(BMI)、PD期間、血液生化学検査からヘモグロビン(Hb)、血清アルブミン(Alb)、C反応性蛋白(CRP)を診療記録より後方視的に調査した。PAの測定には、加速度付きの生活習慣記録機(ライフコーダ®)を用いた。対象者に本記録機を入浴、就寝時間を除く連続9日間装着した。PAの指標として、初日と最終日を除いた7日間の1日当たりの平均歩数(歩/日)、平均運動時間(分/日)、平均運動量(kcal/日)を求め、PD患者全体でのPAの平均値を算出した。続いて、PD患者における歩数別の割合を比較するために、Hatanoら(1993)の報告に基づき、対象者を次の4群に選別した(A群:5000歩/日未満、B群:5000-7499歩/日、C群:7500-9999歩/日、D群:10000歩/日以上)。さらに、運動強度別の運動時間は、Kumaharaら(2004)の報告に基づき、低強度(<3Mets)、中等強度(3-6Mets)、高強度(>6Mets)の3群に選別し、算出した。統計解析は、歩数別の割合の比較にはカイ二乗適合度検定を、運動強度別の運動時間にはKruskal Wallis検定を用い,危険率5%を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、当大学生命倫理委員会の承認を得て、対象には説明の後に文書による同意を取得して実施した(承認番号:第1965号)。【結果】 患者背景は、BMI 23.4kg/m2、PD期間 21.0か月、Hb 10.8g/dl、Alb 3.77g/dl、CRP 0.29mg/dlであった。PD患者のPAは、平均歩数4864.3±3365.7歩/日、平均活動時間53.6±34.4分/日、平均運動量135.6±122.2kcal/日であった。PD患者の歩数別の割合は、A群18例、B群7例、C群3例、D群2例であり、各群の割合には有意な偏りがあった(p<0.01)。運動強度別の運動時間の中央値は、低強度33.3分、中等強度7.3分、高強度0分であり、3群間で主効果を認めた(p<0.01)。【考察】 本研究結果より、歩数別の割合は5000歩/日未満の低活動者が、運動強度は低強度の運動時間がそれぞれ有意に多いことが示された。本結果を健常者の平均歩数と厚生労働省の「平成21年度 国民健康・栄養調査」を参考に比較した。その結果、PD患者は、同性、同年代の健常者の平均歩数の75.6%と低値であった。これは、CKDに伴う腎性貧血、低栄養、運動機能低下といった要因がPA低下に関与している可能性がある。また、PD患者では腹腔内に透析液を貯留しておく必要があり、腹部膨満感を訴えることがある点もPA低下の要因として推察された。次に、PD患者と森ら(2001)のHD患者の平均歩数を比較した。その結果、PD患者は、HD患者(平均年齢65±12.8歳)の平均歩数3266歩/日に比較し、約1600歩高値であった。PDでは日中の透析による拘束時間が短縮され、ライフスタイルが保たれること、透析後の倦怠感が少ないことなどより、HD患者と比較してPAが保たれていた可能性がある。一般にPA向上は、生活習慣病予防や総死亡率の低下に寄与するとされる。そのため、PD患者のPA向上は、QOL維持のみならず、残存腎機能保護、合併症予防、予後改善の観点からも重要である。また、運動強度について、脂肪燃焼や糖代謝などには中等強度での運動が有効とされ、CKDガイドライン上でも、中等強度までの運動で腎機能は悪化しないとされている。よって、PA向上のための介入において、運動強度にも着目する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究はPD患者におけるPAの実態について歩数別、また強度別に示した。本研究結果は、PD患者に対するPA向上のための、運動指導方策の一助となる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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