理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
併存疾患の有無が人工関節置換術後患者の術後経過とADLに及ぼす影響
久原 聡志石倉 龍太村上 武史中元 洋子明日 徹舌間 秀雄加藤 徳明小田 太士岩永 勝蜂須賀 研二
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p. Ca0280

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抄録

【はじめに】 人工股関節全置換術(THA)、人工膝関節全置換術(TKA)は、整形外科領域で代表的な手術であり、手術成績が安定している。対象患者数も非常に多く、現在では各病院でクリニカルパスを作成し、それに沿って治療・理学療法・看護が進められている。しかし、手術対象者は高齢者が多く、多様な合併症や併存疾患を有するため、術後理学療法においてリスク管理が重要である。本研究の目的は、当院でのTHA・TKA患者の合併症や併存疾患の現状を把握するため、術後理学療法を実施した患者の実態を調査し、術後経過や日常生活動作(ADL)に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】 平成21年10月から平成23年9月までに当院に入院し、THA・TKA施行後に理学療法を実施した患者306例(THA:170例、TKA:136例)で、当院術後プロトコールに従って理学療法を施行出来なかった患者、ADLに影響を及ぼす可能性のあるリウマチ性疾患を有する患者を除いた254例(年齢:70.4±10.2歳、男性:27例、女性:227例)を対象とした。併存疾患の程度評価にはCharlson Comorbidity Index(CCI)を使用した。CCIは、疾患そのものが進行性ではない高齢患者の生命予後に関わる併存疾患の集積を定量化して得点化するものである。患者背景として年齢、Body Mass Index(BMI)、手術時間、術後経過の指標として術前、術直後、術後1週目の血清アルブミン値(Alb)、C反応性蛋白(CRP)、ヘモグロビン量(Hb)、歩行開始日数を、ADLの指標として術直後と退院時のBarthel Index(BI)を後方視的に調査した。対象者を合併症・併存疾患無し(no comorbidity群)と合併症・併存疾患有り(comorbidity群)の2群に分類し、比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は対象者への説明と同意に基づいて術後の理学療法を実施し、倫理的配慮のもとデータの解析処理を行った。【結果】 no comorbidity群は118例(46.5%)、comorbidity群は136例(53.5%;CCI=1点:62例、CCI=2点:40例、CCI=3点:22例、CCI=4点:7例、CCI≧5点:5例)であり、comorbidity群の合併症・併存疾患の内訳は、心筋梗塞:22例、脳血管障害:22例、慢性肺疾患:60例、糖尿病:37例、中等度もしくは重度の腎障害:5例、明らかな転移のない癌:29例であった。患者背景において2群間で有意差を認めたものは(no comorbidity群vs. comorbidity群、p値)、年齢(平均68.2歳vs. 72.5歳、p<0.001)のみであり、BMI、手術時間には有意差を認めなかった。術後経過において、歩行開始日数(平均3.0日vs. 3.4日、p=0.03)で群間の有意差を認め、CRP(p=0.053)、Alb(p=0.222)やHb(p=0.455)では有意差を認めなかった。ADLの指標は、退院時のBI(平均89点vs. 86点、p=0.060)においてno comorbidity群が高い傾向を認めた。CCI の点数が増加するに従って歩行開始日数の平均は遅延(CCI=0点:3.0日、CCI=1点:3.1日、CCI=2点:3.7日、CCI=3点:3.5日、CCI=4点:3.7日、CCI≧5点:4.4日)していた。【考察】 当院のTHA、TKA術後理学療法対象患者では、約半数が生命予後に関わる併存疾患を有していることが明らかとなった。また、併存疾患を有する患者ほど歩行開始日数は遅延し、退院時のADLが低下しており、その集積が多いほど術後に及ぼす影響が大きくなることが示された。以上より、手術成績が安定しているといわれている人工関節置換術後患者においても、併存疾患の有無や程度が理学療法の進行やADLに関連しており、画一的にクリニカルパスに沿って理学療法を行うのではなく、患者の状態を更に詳細に把握して実施することが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 高齢社会に伴い、合併症や併存疾患を有する患者が増加している中で、整形外科疾患患者の合併症・併存疾患が術後に及ぼす影響に関する報告は少ない。術後経過やADLに与える影響を明らかにすることで、より安全な理学療法の検討材料になると考えた。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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