理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
足関節底屈運動における母趾貢献と長母趾屈筋断面積の関係
鈴木 徹倉田 勉小口 敦赤羽根 正浩矢内 宏二田口 英紀笹原 潤鮫島 康仁小黒 賢二
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p. Ca0214

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抄録

【目的】 足関節底屈運動には腓腹筋とヒラメ筋(以下SOL)が主動作筋として働き、補助動筋として後脛骨筋、長・短腓骨筋、足趾屈筋群も関与している。その中でも長母趾屈筋(以下FHL)は構造的に筋長が長く、大きな底屈モーメントを発生させる。アキレス腱断裂後患者に関する研究でFHLが足関節底屈筋力を代償するという報告があり、我々も術後長期経過したアキレス腱断裂後患者の歩行足底圧において母趾荷重量の増加を認め、FHLが足関節底屈機能に関与している可能性を報告してきた。また筋力に影響を与える一因として筋断面積など筋の形態学的特性が挙げられ、実際に最大筋力と筋断面積の間には高い相関があるという報告は多々されている。そこで本研究の目的は底屈運動におけるFHLの関与を筋断面積と底屈運動時の足底圧の関係から検討することとした。【方法】 対象は健常成人男性10名(平均年齢 26.3±1.95歳)の左右20足とした。筋断面積はMRI下腿水平断像(T1強調画像)を撮像し、画像解析ソフトImageJ(Broken Symmetry Software製)を使用してSOLとFHLの筋断面積を計測し、さらにSOLに対するFHLの筋断面積比を求めた。撮像は距腿関節関節窩より近位方向へ1cm等間隔にて全26箇所とし、筋断面積計測箇所はSOLの最大膨留部であった距腿関節関節窩より近位18cm部の水平断像とした。運動課題はCon-Trex MJ(CMV AG社製)を用いて腹臥位にて等尺性足関節底屈運動、等速性足関節底背屈運動30、90、180deg/sec(各反復5回ずつ)とし、足底圧分布システムF-scanII(ニッタ株式会社製)を使用して運動課題遂行時の足底圧を計測した。足底圧は前足部と母趾の2箇所の圧積分値を算出し、先行研究で報告した前足部圧積分値に対する母趾圧積分値の割合(以下、母趾貢献率)を求め、筋断面積比との関係性を検討した。また疲労課題として等速性運動180deg/secにて反復50回を実施し、開始10回と終了10回の前足部圧積分値の平均値から減衰率を算出し、筋疲労に伴う前足部圧積分値低下と各筋断面積、筋断面積比との関係性も検討した。統計学検討はPearsonの相関係数を用いて検討し、有意水準は5%とした。【説明と同意】 各被験者には本研究を実施するにあたり研究目的や方法を十分に説明し同意を得た上で行った。【結果】 筋断面積はSOLで20.22±5.21cm2、FHLで3.14±0.88 cm2であり、SOLに対するFHLの筋断面積比は16.35±6.03%であった。母趾貢献率は等尺性運動で14.96±6.42%、等速性運動30deg/secで17.46±8.80%、90deg/secで17.12±8.63%、180deg/secで17.19±7.36%であった。筋断面積比と等尺性運動時の母趾貢献率との間に有意な相関関係は認められなかったが、全ての等速性運動時の母趾貢献率との間には有意な正の相関関係(30deg/sec:r=0.556 、90deg/sec:r=0.622 、180deg/sec:r=0.587)を認めた。疲労課題において前足部圧積分値は開始10回で22.05±7.10kg/sec、終了10回で11.21±6.07kg/sec、減衰率は-48.15±24.26%であった。SOL筋断面積と前足部圧積分値の減衰率の間には有意な相関関係は認められなかったが、FHL筋断面積と前足部圧積分値の減衰率の間には有意な負の相関関係(r=-0.470)を認めた。また筋断面積比と減衰率の間にも有意な負の相関関係(r=-0.591)を認めた。【考察】 SOLに対するFHLの筋断面積比と母趾貢献率との間に有意な正の相関が認められたことから、足関節底屈運動におけるFHLの貢献度はその筋断面積や筋線維量に依存していることが考えられる。さらに最大底屈筋出力時の母趾圧力は前足部全体の圧力に対し約17%と比較的高値になることが分かる。自験例での歩行、踵上げ時の母趾貢献率は約8%であり、同じ底屈運動でも最大筋出力時ではより高い貢献をする可能性が考えられる。また疲労課題において前足部圧力低下は底屈主動作筋であるSOL筋断面積の大小が強く関係していると予想されたが、実際SOL筋断面積と前足部圧積分値の減衰率との間には相関は認めず、FHL筋断面積との間に有意な相関を認めた。これにより前足部圧力低下はSOLよりもFHLの断面積に依存している可能性が考えられる。FHLは主動作筋であるSOLや腓腹筋と比較しても筋断面積や筋線維量が少なく、筋持久力に乏しいことは明らかであるため、運動初期でのFHLの貢献度が高いほど早期に前足部圧力低下が生じる結果となったと考えられる。今後は本研究で明らかとなったこの底屈機能の個体差が疲労に伴う傷害発生にどのような影響があるのか、運動と傷害の点から検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究より足関節底屈運動において母趾の関与が高いことが分かった。この背景にはFHLの存在があり、本来母趾屈曲の主動作筋であるFHLが底屈機能に高い貢献をしている可能性が考えられた。足関節機能を把握する上で足部、足趾機能を見直す必要性があるのではないかと考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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