理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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体幹アライメントが歩行開始動作に及ぼす影響
島村 亮太若井 雅幸金村 尚彦国分 貴徳安彦 鉄平安彦 陽子高柳 清美
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p. Ab0412

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抄録

【はじめに、目的】 歩行開始動作(gait initiation,GI)は,静止立位から歩き始める動作であるため,姿勢の変化が起こりバランスを崩しやすく,高齢者の転倒の原因となることが多い.体幹は身体質量の約50%を占め,体幹アライメントは姿勢や動作に影響を及ぼしやすい.歩行時の矢状面上における体幹の肢位が下肢に影響を与え,歩行能力の低下による転倒や下肢の運動器疾患のリスクの増加が示唆されている.特に高齢者では,脊柱が屈曲位となりやすく,姿勢や動作に影響を及ぼすことが考えられる.しかし,体幹の肢位の違いがGIに与える影響については明らかにされていない.本研究の目的は,脊柱を屈曲位にした際の体幹アライメントが,GIに与える影響を調べることである.【方法】 対象は健常な若年者15名(男性10名,女性5名)とし,対象の年齢は21.1±0.7歳(平均±標準偏差),身長は169.3±8.8cm,体重は60.0±7.5kgであった。GIの開始肢位は,2枚の床反力計の上に左右各々の足部をのせた立位姿勢とした.両足部は裸足で足幅は肩幅とした.立位中は前方を見るようにし,上肢は体側においた.課題動作は立位姿勢からのGIとし,ビープ音の合図を動作の開始として,右足を一歩踏み出し,そのまま3m歩行させた.課題は,被験者の感じる自由速度で行った.高齢者疑似体験装置(体幹装具)を使用して,体幹を屈曲位で固定した状態での体幹アライメント(屈曲位)と,着用しない状態での体幹アライメント(伸展位)の二条件で課題を行った.二条件の実施の順番はランダムとし,それぞれ3回の計測を行った.GIの運動学的データと運動力学的データは,6台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析システムと4枚の床反力計を使用して求めた.三次元動作解析システムと床反力計を用いたデータの取得は,サンプリング周波数60Hzで行った.GIを足圧中心が1歩目遊脚側の下肢へ,最大に外側移動する時期(mediolatelal max COP,MLmaxCOP),1歩目遊脚側の足部が離地し,床反力垂直成分が0となる時期(toe off,TO),1歩目遊脚側の足部が再接地し,床反力垂直成分が発生する時期(initial contact,IC)の3つの時期に分類した.各時期において,Vicon Body Builderを用いて矢状面上での体幹と左右下肢の関節角度,身体質量中心と足圧中心の間の距離,歩幅,クリアランスを算出し,3回の計測で得られたデータの平均値を代表値とした.各対象者内において,体幹と下肢の角度,歩幅,クリアランスにおける屈曲位と伸展位の比較には,対応のあるt-検定を用いた.有意水準は5%とし,すべての解析には,SPSS17.0 J for Windowsを使用した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,研究に先立ち,埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科倫理委員会より承認(受付番号,第22704号)を得て,口頭にて十分に説明し,書面にて同意を得た後に実施した.【結果】 屈曲位は伸展位に比べ,歩幅とクリアランスが有意に低い値を示した.屈曲位は伸展位と比べ体幹の屈曲角度と骨盤の後傾角度が有意に高い値を示した.屈曲位において,TOとICで右の股関節屈曲角度と左の膝関節屈曲角度が有意に高い値を示した.【考察】 体幹装具により体幹が屈曲位に固定されることで,腰部の伸展角度に低下が起こり,骨盤の後傾角度に増加が起きたと考える.また,TOからICにかけて身体質量中心の前方移動が起こり,膝関節の屈曲角度を増加させることで身体質量中心の前方移動を制動したと考える.さらに,体幹装具ではTOからICにかけて体幹と左膝関節の屈曲角度が増加することで身体質量中心が下方に移動し,右股関節の屈曲角度の低下も影響し歩幅とクリアランスが低下したと考える.【理学療法学研究としての意義】 体幹を屈曲位に固定することで,GIにおける下肢の角度に影響を与えることが明らかとなった.さらに,歩幅やクリアランスの低下が起こることが明らかとなり,転倒のリスクが増加する可能性が示唆された.今後は実際に高齢者や転倒経験者の解析を行い,体幹アライメントが転倒に及ぼす影響をより明らかにする必要がある.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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