理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
一側手指の運動リズムの違いが同側一次運動野の皮質内,皮質間抑制回路網に及ぼす影響について
上原 一将守下 卓也船瀬 広三
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p. Aa0888

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抄録

【はじめに、目的】 近年,リズム運動を用いた介入が脳卒中後の運動機能回復に有効であることが報告されている(Ackerley et al., 2011).我々は先行研究として一側肢の運動リズムの違いが同側一次運動野(ipsilateral primary motor cortex,ipsi-M1)に及ぼす影響について経頭蓋磁気刺激(Transcranial magnetic stimulation, TMS)を用いて検討した結果,ipsi-M1はその運動リズムの違いに依存して興奮性が変化する(1Hz, 3Hz条件は促通,2Hz条件は抑制)ことが明らかになった(Uehara et al., 2011).そこで,本研究では運動リズムの違いに依存したipsi-M1の興奮性変化に起因する神経回路網(皮質内抑制回路,半球間抑制回路)の変化についてpaired-pulse TMSを用いて検討することを目的とした.【方法】 被験者は右利き健常成人28名 (年齢21-28歳,男性16名,女性12名).被検筋は両側第一背側骨間筋(FDI)とし,Ag-AgCl 表面電極を用いて筋電図(EMG)を記録した.本実験における課題は,最大筋収縮(MVC)の 10%の左示指外転反復等尺性運動を以下の条件で実施した.a)1Hz,b)2Hz,c)3Hz,d)持続的等尺性収縮(10% of MVC),f)at restとし,a)~c)それぞれの条件のビープ音を被験者に与え,運動を正確に同調するよう指示した.本実験では上記課題中にipsi-M1のi)short intracortical inhibition(SICI)/ intracortical facilitation(ICF),ii)long intracortical inhibition(LICI)を記録し,さらにcontra-M1からipsi-M1方向へのiii)interhemispheric inhibition(IHI),iv)dorsal premotor cortex(PMd)-M1 connectivityを記録した.TMSの刺激方法についてはSICI,ICF,LICIに関しては同一のfigure-of-eight coilから2連発刺激(条件刺激(CS)+試験刺激(TS))を実施した.刺激部位はipsi-M1のFDI刺激最適部位とした.刺激間隔(ISI)については,SICIは3ms,ICFは12ms,LICIは100msとし,CS intensityはSICIとICFでは右FDI安静時閾値(RMT)の0.8倍,LICIではat rest条件で50%の抑制量が得られる刺激強度を用いた.一方,IHI及びPMd-M1 connectivity(PMd-M1)に関しては2つのfigure-of-eight coilから2連発刺激(CS+TS)を実施した.刺激部位について,IHIでは,ipsi-M1及びcontra-M1各々のFDI刺激最適部位とし,右M1(contra-M1)にCS,左M1(ipsi-M1)にTSを与えた.ISIは10msと40msを用い(IHI10,IHI40),CS intensityは右FDIのRMTの1.0,1.2,1.4倍の3条件とした.PMd-M1はNi et al. (2009)の方法を用いて実施し,PMd刺激部位は右FDIの刺激最適部位から2.5cm前方,1.0cm内側の位置とした.ISIは10msとし,PMd刺激強度は右FDIのRMTの1.2,1.4倍とした.SICI,ICF,LICI,IHI及びPMd-M1のTS intensityは試験刺激単独で1mVの運動誘発電位(MEP)振幅値が得られる強度とした.統計処理は,SICI,ICF,LICIは各々one-way repeated AVOVAを実施し各課題条件間の違いを検討した.IHI,PMd-M1は“課題条件”,“条件刺激強度”の因子によるtwo-way repeated ANOVAを行った.なお,有意水準はp<0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施され,広島大学大学院総合科学研究科倫理委員会の承認を得て,被験者には十分な説明と書面にて同意を得た上で実施した.【結果】 LICI及びPMd-M1では“課題条件”に有意差が認められた(LICI:F4,49 =6.61,p<0.01,PMd-M1:F4,79 =3.60,p<0.01).Post-hoc testからPMd-M1は2Hz条件で他条件と比較して有意な抑制がみられた(p<0.05).一方,LICIは2Hz条件で有意な脱抑制がみられ,その他の条件では抑制が強くなった(p<0.05).IHI10は,“課題条件”に有意差が認められた(F4,149 =6.04,p<0.01)が,at restとリズム条件間に有意差は認めた (p>0.05)が,リズム条件間内で有意差は認められなかった(p>0.05).SICI,ICF,IHI40には有意な変化は認められなかった.【考察】 本研究結果からPMd-M1及びipsi-M1のLICIが一側手指の運動リズムの変化に深く関与するという新たな知見が得られた.PMdは外部刺激によるリズム運動に深く関与していることが報告されている(Zatorre et al., 2007; Ruspantini et al., 2011).つまり,リズム運動中のPMdからの入力がipsi-M1の興奮性を変化させていることが示唆される.LICIに関しては,ipsi-M1の興奮性とは異なり1Hz,3Hz条件では抑制が強くなり,2Hz条件では脱抑制が観察された.これはipsi-M1の過剰な興奮性変化を防ぐための補足的な活動である可能性が示唆される.【理学療法学研究としての意義】 近年,脳卒中の運動機能回復を目的としたリハビリテーション介入方法として注目されているauditory-motor interactionの神経生理学的背景及び今後の臨床応用に有益な知見である.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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