理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-466
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ポスター発表(一般)
危険予知トレーニングへの取り組み
川越 太陽松下 昭一愛下 由香里
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抄録

【目的】
当院は、医療事故を防止し安全かつ適切な医療の提供体制を確立することを目的として医療安全管理委員会を設置している。リハビリテーション部門(以下リハ部門)は、リスク管理の重要性から医療安全管理マニュアルを作成し、定期的に安全管理研修を行っている。これまでインシデントの発生ケースは、リハビリテーション室内(以下リハ室)において治療中の転倒や点滴ルート類の外れが最も多い結果となっていた。これは人為的なミスだけでなく環境そのものを見直すことで回避できたケースもあると考えられた。そこで今回リハ室の全面移設に伴って、新たな危険が潜んでいないかリハビリテーションスタッフ(以下リハスタッフ)全員で見直した。今回のリハ室全面移設は、新たな病棟建設に伴う仮設建物への一時的な移設であった。病棟と別棟となり、連結通路も屋根のみの屋外環境であったため、建物および周辺の安全環境をリハスタッフ全員で見直す必要があった。今回から新たに危険予知トレーニング(以下KYT)を導入し、その成果について若干の知見を得たのでここに報告する。
【方法】
対象は当院リハスタッフ12名。平均年齢31.9±5.4歳。平均経験年数8.1±3.5年。内訳は理学療法士7名、作業療法士4名、リハビリ助手1名である。
方法はKYT基礎4ラウンド法を行った。第一ラウンド(現状把握)は患者の動線を中心にリハ室内外を巡回して現状を確認し、考えられるリスクを発表し合った。調査箇所は1)病棟廊下からの分岐部、2)リハ室までの屋外連結通路、3)玄関出入り口、4)待合室、5)理学療法室、6)作業療法室、7)物理療法室、8)トイレとした。第二ラウンド(本質追求)は最も危険な事態が発生する確率や、インシデントが発生した場合の深刻さを考慮して危険ポイントを絞った。第三ラウンド(対策の樹立)は経験年数の若い順に調査箇所の写真を添付した資料を回覧し、危険ポイントを解決するための具体策を記入した。第四ラウンド(目標設定)は危険ポイントを巡回し、具体策を実行するための行動目標を立てリハスタッフで共有した。その後、五段階評価のアンケートを実施し意識調査を行った。
【説明と同意】
本研究は当院臨床研究委員会の承認を得た。
【結果】
危険ポイントは、1)は砂利の乗り上げ、床の結露、2)は風雨、冷え、暗さ、3)は水溜り、手摺りが濡れやすい、4)は水滴、泥の乗り上げ、空調管理、5)は動線の確保、柱、マットの障害物、6)は物品、危険物の所在、7)は職員不在時の対応、8)は使用中の照明自動OFF等となった。その対策として危険箇所の注意喚起を分かりやすく貼り紙と口頭で案内する、天候不良時の患者誘導方法を統一する、空調の設定温度を季節ごとに設定、温湿度計をチェックし適宜柔軟に対応する、物品、器具の収納場所を固定する等が決定した。
アンケート調査の結果、92%が、安全管理意識が変化したとリスクの関心が高まったに「かなり思う」「思う」と答え、KYTがリスクに対する意識改革を促したことが示唆された。また100%が、自分の気付かなかった部分に気が付いたに「かなり思う」「思う」と答えた。
【考察】
KYTとは、以前から建設業界で行われていたリスク管理対策で、数年前から医療の分野に転用され、近年医療KYTとして広く普及している。リハ部門ではこれまでも急変時緊急対応の流れをマニュアル化することやBLS講習の開催、文献訬読会でリスクに関するテーマを取り上げたり、実習学生指導初日にOSCEを導入して対応能力を把握したりするなどして、インシデント予防対策を講じてきた。これまで机上会議の場面では、出席者の意見が積極的に交わされることが少なく、一方的な報告型の議論に終始する点が問題であったが、KYTは全員で巡回しながら議論することで、多くの意見を集めることができた。また資料を経験年数の若い者から順に回覧することで、全ての年代から意見を集めることができた。積極的に議論できる本方法は全員参加型のコミュニケーション手段として確立することができると考える。
KYTは、自分の気付かない部分でも、あるひとりの気付きからリスクを発見し、全員で対策を共有することでインシデントを回避できることである。またリスクに対する意識改革を促し、関心を高める効果があり、安全な医療提供の実現につながると考える。今後の課題として、病棟治療場面での環境の見直しや、患者の意見を傾聴するなどの工夫、発展が必要だと考える。
【理学療法学研究としての意義】
KYTはリハスタッフの意識改革に成功し、新しいコミュニケーション手段を確立することができた。今後も定期的に取り組むことで続報、研究としての意義があると考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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