理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI1-037
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口述発表(一般)
ロボットスーツHALの装着適応性についての検討
佐野 歩水上 昌文吉川 憲一古関 一則浅川 育世菅谷 公美子吉川 芙美子萩谷 英俊海藤 正陽岩本 浩二齋藤 由香田上 未来大瀬 寛高居村 茂幸
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キーワード: HAL, 適応要件, 運動機能
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抄録

【目的】
ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は、筋活動電位および足底の荷重分布、関節の角度情報を基に、股・膝関節のモーターを駆動してトルクをアシストする装着型の動作支援機器であり、CYBERDYNE株式会社により開発され、2009年より施設向けリース販売が開始されている。我々は運動機能障害者に対し、障害の種別・程度に応じたHALの適応の有無および調整方法の確立を目的に標準運用技術の開発を行っている。
今回は、対象者のHAL装着前と装着時の歩行動作(矢状面)のビデオ映像を基にHAL装着の適応の有無の判定を実施した上で、事前に評価した運動機能データから、HALの適応要件を明らかにすることを目的とした。なお本研究は(財)茨城県科学技術振興財団による生活支援ロボット研究開発推進基金により実施されている研究の一部である。
【方法】
対象は当院入院中および退院者の男性9例、女性4例、年齢は39~81歳、平均59.9±13.07歳。疾患内訳は脳卒中片麻痺8例(下肢Br.stage3:3例、4:1例、5:4例)、脊髄損傷5例(AIS C:3例、D:2例)であり、研究期間は2010年5月から10月であった。装着前評価の運動機能項目は、等尺性膝伸展トルク(坐位・膝90度屈曲位で携帯型筋力計により測定)、Functional Balance Scale(以下FBS)、10m歩行速度、歩行率、FIM移動項目スコアとした。HAL装着評価は、股・膝関節の伸展・屈曲方向のアシストの調整を行い動作が習熟したと思われた時点で、歩行動作を5mの距離から矢状面にてビデオ撮影した。撮影されたビデオ画像を基に、7名の理学療法士(経験年数3~14年,平均7.3±4.39年)により,HALの適応判定を実施した。
結果の分析は、装着前評価における運動機能の各項目について、適応群・非適応群間でWilcoxonの順位和検定にて比較検討した。統計処理はSPSS(Ver.16)を用い、有意水準は5%とした。
【説明と同意】
本研究は茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得て実施され、対象者は公募とし応募者に対し研究の説明の後に書面にて同意を得た後に実施した。
【結果】
HALの適応評価判定の結果は、適応群5例(脳卒中片麻痺3例、脊髄損傷2例)、非適応群8例(脳卒中片麻痺5例、脊髄損傷3例)であった。適応群・非適応群間にて各運動機能項目について平均値を比較したところ、「等尺性膝伸展トルク強側」は、適応群1.04Nm/kg、非適応群0.50Nm/kg、「等尺性膝伸展トルク弱側」は、適応群0.70Nm/kg、非適応群0.18Nm/kg、「FBS」は、適応群38.60点、非適応群17.38点、「10m歩行速度」は、適応群31.51m/min、非適応群14.04m/min、「歩行率」は、適応群71.59、非適応群は49.47、「FIM移動項目スコア」は、適応群5.00、非適応群2.86であり、FBSおよび10m歩行速度において適応群が有意に高値を示し、等尺性膝伸展トルク弱側において適応群が有意に高い傾向を示した。
【考察】
HALはあくまでも自動運動をアシストすることにより動作支援を行う装置であり,アシストを行うモーターの出力にも限界がある。活動電位は生じても十分なトルクを発生出来ない運動機能レベルでは、HALのアシストが行われたとしても有効な動作を生じない結果となる。今回の結果は,HALを使用することによる何らかの「効果」が得られたと判断された適応群では、「FBS」と「10m歩行速度」が非適応群に比して有意に高値を示し、HALが有効である症例には、運動機能として一定の立位保持能力と立位バランス能力、歩行能力が必要であることが明らかとなった。FBSはバランス能力の指標であり、歩行自立予測値は42点前後とされている。今回は症例数もまだ少なく,カットオフラインを確定するには至らなかったが,この値より低い点数から適応となることが推察され、平行棒内での起立・歩行がある程度可能な運動能力が必要だと推察する。
今後は多様な障害の種別,重症度の症例の装着試験を通じ、より正確なHAL適応基準の策定を目指して行きたい。
【理学療法学研究としての意義】
ロボットスーツHALをはじめとする生活支援機器の適用・運用指針を明らかにし,適応練習を実施し,ADL・QOLの向上を目指すのも理学療法の一部である。本研究はその端緒を担っている点で意義深い。

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© 2011 日本理学療法士協会
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