理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-367
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ポスター発表(一般)
乳がん術後リンパ浮腫の発症部位の違いがQOLに及ぼす影響
三澤 加代子川崎 桂子高橋 友明畑 幸彦
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キーワード: 乳がん, リンパ浮腫, DASH
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抄録

【目的】
前回の本学会において,乳がん術後にリンパ浮腫を発症した患者では,肩関節可動域や上肢筋力の有意な低下はみとめないが,quality of life (以下QOL)の低下が生じていることを報告した.今回われわれは,乳がん術後の上肢リンパ浮腫発症部位の違いに注目し,Disabilities of the Arm,Shoulder and Hand The JSSH Version (以下DASH)を用いて,リンパ浮腫の発症部位の違いによってQOL上どのような動作で困難感を感じているかについて調査したので報告する.

【方法】
対象は,当院で乳がんに対し手術を施行され術後1年以上経過し,再発・転移のない36例とした.調査時年齢は52.0±11.9歳,全例女性,術側は右16例左20例,利き手は全例右側であった.術式は非定型的乳房切除術26例,乳房温存術10例,リンパ節郭清範囲は,Level3 10例,Level2 13例,Level1 4例,センチネルリンパ節生検9例,職業の有無は有り23例,無し13例であった.上肢リンパ浮腫の評価としては,リンパ浮腫診療ガイドラインに基づき,メジャーを用いて両側の上腕径と前腕径を計測し,術側と非術側の周径差(健患差)を算出した.なお,周径の計測は同一検者が行った.上肢QOL評価は,DASHを用いて,Disability/Symptom scoreの30項目(DASH-DS)について自己記入にて行った.
まず,全例の上腕径,前腕径それぞれの健患差とDASH-DSの各項目の得点との相関関係について調査した.また症例を利き手側手術群(右16例)と非利き手側手術群(左20例)の2群に分類し,それぞれの上腕径,前腕径の健患差とDASH-DSの各項目の得点との相関関係について調査し,2群間で比較検討した.なお,統計学的検定は,Spearmanの順位相関係数を用い,危険率0.05未満を有意差ありとした.

【説明と同意】
本研究の主旨を説明し同意を得られた患者を対象とした.

【結果】
上腕と前腕の部位別によるDASH-DSとの相関については,上腕径では,「ベッドメーキングまたは布団を敷く」(r=0.36),「頭上の電球を交換する」(r=0.39)の項目で有意な相関を認めた(p<0.05,p<0.05),また前腕径では「食事の支度をする」(r=0.44)の項目で有意な相関を認めた(p<0.05).
利き手側手術群と非利き手側手術群の2群における,DASH-DSとの相関については,利き手側手術群において上腕径では,「頭上の棚に物を置く」(r=0.54),「肩,腕や手に筋力を必要とするか,それらに衝撃のかかるレクレーション活動をする」(r=0.60),「腕・肩・手の障害のために,自分の能力に自信がないとか,使いづらいと思っている」(r=0.59)の項目で有意な相関を認めた(p<0.05,p<0.05,p<0.05),前腕径では,「洗髪やヘアードライヤーを使用する」(r=0.68)の項目で有意な相関を認めた(p<0.05).しかし,非利き手側手術群においてはすべての項目で相関を認めなかった.

【考察】
今回の結果より,上腕の浮腫は「ベッドメーキングまたは布団を敷く」や「頭上の電球を交換する」などの上肢挙上位保持や力を必要とする動作に影響を及ぼしており,前腕の浮腫は「食事の支度をする」といった巧緻動作を含む動作に影響を及ぼしていることがわかった.辛島らによれば,乳がん術後のADLは自立度は高いが,術側上肢の挙上や筋力を必要とする動作が困難であり,術側上肢が疲れやすく,力仕事ができないと訴える患者が多く,これらの原因はリンパ管の再生遅延,腋窩郭清に際しての静脈の損傷や狭窄などによる循環障害が考えられたと報告している.われわれの結果においても,上腕のリンパ浮腫は力仕事に影響しており,辛島らの報告に同調するものであった.さらに,今回の結果から,前腕のリンパ浮腫の場合,力仕事よりも巧緻動作を含む動作に影響していることが判明し,リンパ浮腫の部位によって注意すべきQOL障害が異なることが示唆された.また,術側によるリンパ浮腫の発症がQOLに及ぼす影響として,利き手側が術側の場合にQOL低下が明確となることが確認された.

【理学療法学研究としての意義】
今回の研究結果より,乳がん術後の上肢リンパ浮腫の発症において,浮腫の発症部位によってQOL障害の内容が異なることが判明し,また利き手側が術側の場合にQOLに及ぼす影響が大きいことが確認された.このことから,術後理学療法において,リンパ浮腫の発症部位および利き手側かそうでないかに注意することで,具体的なQOL低下の内容を早期に予測し,有効な対応を検討することが可能になると思われた.

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© 2011 日本理学療法士協会
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