理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-358
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ポスター発表(一般)
肺切除術後患者における呼吸機能および運動耐容能の変化
術前後と退院1ヶ月後での検討
高木 敏之大塚 由華利並木 未来篠﨑 かおり小野寺 恭子井上 真秀樋田 あゆみ金子 公一牧田 茂
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抄録

【目的】肺切除術後患者の肺機能と運動耐容能の変化についての報告はされているが、その多くが術後数カ月経過しADL上支障のない時期に実施されているのがほとんどである。当院では肺切除術後から比較的早期に(9.1±2.4日)退院する患者が多く、退院後のADLや復職に関して不安を訴える者が少なくない。そのため我々は術前後に呼吸機能検査及び心肺運動負荷試験(以下CPX)を実施し、その結果から退院時のADL指導などを行い、また退院後約1ヶ月後にも同様の検査を実施し呼吸状態や運動耐容能の評価を行っている。今回、肺切除術後患者の当院退院時と退院1カ月後の呼吸機能及び運動耐容能を比較・検討したのでここに報告する。
【方法】対象は2008年4月~2010年10月までに,当院にて肺癌のため肺切除術施行前後に呼吸理学療法を行った患者で術前後ならびに退院後約1ヶ月(28.9±7.9日)後に呼吸機能とCPXを実施できた患者18名(平均年齢60.2±8.8歳)とした。その内訳は男性12名,女性6名で、術式の内訳は部分及・区域切除3名、葉切除14名、全摘1名とした。呼吸機能検査にはチェスト社製MICROSPIRO HI-801を用いて,肺活量(以下VC),努力性肺活量(以下FVC)、一秒量(以下FEV1.0)を測定した。CPXには自転車エルゴメータを用い,安静3分間,ウォーミングアップ0Watt4分間の後,15Watt/minのRamp負荷を症候限界性に実施した。その際、呼気ガス分析装置AE300S(ミナト医科学社製)にてbreath by breathによる測定を実施し,嫌気性代謝閾値(以下AT)、最高酸素摂取量(以下PeakVO2/kg)、VE/VO2、VE/CO2を測定した。また,呼吸予備能を【最大努力換気量(MVV)-最大換気量(PeakVE)】の式からを求めた。測定で得られた各パラメーターを術前・退院時・外来時の測定時期ごとに一元配置分散分析及び多重比較検定を用いて比較・検討を行った。
【説明と同意】検査実施前後には十分に検査の目的・内容を説明し同意を得た。
【結果】術前・退院時・外来時を比較し、PeakVO2/kg(術前→退院時→外来時:19.9±4.7→15.5±3.2→17.0±4.1 ml/kg/min)、VC(116.3±15.3→71.5±13.7→81.4±12.2%)、FVC(111.0±16.2→70.7±14.3→%)、FEV1.0(107.5±21.0→67.0±13.5→76.57±16.1%)、呼吸予備能(56.4±22.4→26.1±16.6→31.2±14.8 L/min)は術前と比べ退院時は有意に低下していた(p<0.01)。また、外来時においても術前と比べ有意に低下していた(p<0.01)。PeakVO2/kg、VC、FVC、FEV1.0、呼吸予備能は退院から1ヶ月経過で回復の傾向は示すが統計学的に有意な改善は認められなかった。
【考察】肺切除術後患者の術前・退院時・外来時に呼吸機能検査とCPXを実施し、呼吸機能及び運動耐容能の変化を検討した。肺切除術後は肺の血管床が減少し、それに伴い心拍出量が低下するとされており、これにより一回心拍出量が減少しPeakVO2
の低下を来たしたと考えられた。また、肺の切除に伴いVC、FVC、FEV1.0は低下し、最大運動時での換気量の増加能力を表すとする呼吸予備能も低下を示した。これにより運動時の換気量は低下し、肺切除術患者の運動耐容能の低下の要因となったと考えられる。今回の結果では肺癌患者は術後低下した呼吸機能や運動耐容能は、退院後1ヵ月では改善を認めなかった。文献などでも呼吸機能や運動耐容能は術後3ヶ月低下を示し6ヶ月以降で改善傾向を示すという報告が多い。患者は退院後1ヶ月程度で術前生活への復帰や復職を余儀なくされることが多く、術前にくらべADL上での制限を自覚する患者も少なくない。術前の呼吸理学療法や術後のリスク管理を中心とした早期離床だけでなく、必要に応じて心肺機能の向上を目的とした外来や自宅での運動療法を行い体力の向上を図り退院後の速やかなADL復帰を図る必要があると考える。今後は退院後の運動指導や外来での運動療法実施後の呼吸機能や運動耐容能に対する影響や効果を検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】今後さらに研究を続けて、肺切除術後患者の自宅退院後の呼吸機能と運動耐容能の経過を観察する。また、これらの患者に対し理学療法を行い、呼吸機能や運動耐容能の改善の促進となる理学療法内容を検討していきたい。

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© 2011 日本理学療法士協会
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