理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PF2-012
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ポスター発表(特別・フレッシュセッション)
メンタルローテーション課題における脳活動と反応時間の関係
EEGを用いて
楠元 史兒玉 隆之森岡 周
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抄録

【目的】
メンタルローテーション(以下、MR)課題に関する研究は1971年にR.Shepard とJ.Metzlerによって報告された後、数多くの脳研究が行われてきた。しかし、それらの研究の多くは空間的解析に優れたfMRIやPETを使用したものであり、時間的変化をとらえた報告はほとんどない。一方、先行研究において、疼痛罹患肢と非疼痛罹患肢やスポーツ選手と健常人との比較にて、MR課題における反応時間(以下、RT)に差が生じることが明らかにされた。これはMR課題を行う際の運動イメージ想起能力に違いがあると考えられている(山田ら 2008,2009)。しかし、RTと脳活動領域の関係を示した報告はない。そこで本研究では、MR課題時の脳活動領域とRTとの関係を時間的分解能力に優れた脳波計を用いて検討することを目的とした。
【方法】
対象者は、右利き健常大学生15名(男性10名、女性5名、年齢22.8±1.6歳)。15名をRTの早い者から下降系列に早い群5名、中間群5名、遅い群5名に分け、そのうち、早い群と遅い群の比較を行った。平均RTは早い群では1.07sec、遅い群では1.71secであり、両者には有意な差が認められた(p<0.01)。
課題呈示には刺激呈示装置(島津製作所)を用い、1試行計48枚の手画像をランダムに呈示した。対象者は写真が呈示されると、「できるだけ早く正確に」という指示のもと回答した。課題は1試行をデモンストレーションとして行い、2試行目をデータとして使用した。課題中の脳活動に関しては高機能デジタル脳波計ActiveTwoシステム(BioSemi社製)を用いて記録計測した。データ解析にはEMSE Suite プログラム(Source Signal Imaging)を使用した。0.1Hz-20Hzの帯域パスフィルターをかけ、80μVを超えたものはアーチファクトとして除去した。1.回転操作が必要な画像、2.回転操作が必要でない正立画像において、それぞれ画像提示後500msecの範囲で加算平均し、1.から2.を減算することで心的回転に必要な脳活動の波形を抽出した。その後、RTの早い群と遅い群、それぞれ5人の波形を加算し、sLORETA解析を用いて脳内神経活動の発生源同定を行い、MRI画像にマッピングし、脳活動の時間的変化を群間で比較した。信頼できるデータ解析のための正答率は80%とされており(Kodama T 2010)、本研究も全て80%以上であったことから、信頼性のあるデータと判断し解析を行った。また、早い群と遅い群の正答率に有意差はみられなかった。
【説明と同意】
課題施行前に研究内容について対象者が十分に理解するまで口頭で説明し、同意を得た。
【結果】
RTの早い群では、画像提示後100msec時にまず後頭葉の活動が見られ、それに続き160msec時に側頭葉、270msec時には側頭葉の活動に加え背側前頭前野、370msec時には側頭葉の活動に眼窩・内側前頭前野の活動が加わった。一方、遅い群では、画像提示後100msec時に後頭葉の活動が見られた後、160msec時に頭頂葉の活動が、370msec時には頭頂葉の活動に加え眼窩・内側前頭前野の活動を認めた。
【考察】
RTの早い群では視覚野に入った情報が腹側視覚路を通って側頭葉、そして背側前頭前野に情報伝達されていた。側頭葉は形態の記憶に関与していることや背側前頭前野はワーキングメモリーの役割を有していることから、提示された画像の手を「形態」から知覚し判断しているのではないかと考えられた。一方、遅い群では、視覚野からの情報は背側視覚路を通って頭頂葉、その後、前頭前野に情報伝達されていた。これは提示された画像の手を空間認知するとともに自己の身体図式と照合するといった心的回転の過程をあらわしているのではないかと考えられた。また、両群にみられた眼窩・内側前頭前野の活動増加については、これら領域は、意思決定や葛藤の同定と行動の制御に働くことから、今回のMR課題では正確さと早さを求めるといった矛盾する課題設定のため、葛藤を生じさせながら意思決定している可能性が考えられた。結果より、RTの早い群においては、頭頂葉の活動が見られないことから、心的回転の過程を経由していない可能性が考えられ、よって運動イメージが想起されていない可能性が示唆された。したがって、RTの速さが運動イメージの想起能力に直接的に関係するとは言えないのではないかと推察した。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法において運動イメージ課題の導入が積極的にされはじめてきたが、運動イメージ想起のためにMR課題を用いる際には、課題施行の早さを求めるのではなく、ある程度時間に猶予を持たせ心的に回転させた上で、対象者が呈示された画像をどのようにとらえているか内省を聞きながら進めていくことが必要になるのではないかと考えられた。

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© 2011 日本理学療法士協会
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