理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-026
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口述発表(特別・フリーセッション)
理学療法における下腿最大周径囲把握の意義
森上 亜城洋西田 裕介
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キーワード: 下腿周径, ヒラメ筋, 栄養
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抄録

【目的】理学療法評価の中で身体計測は,身体の栄養状態,筋線維の萎縮・肥大,身体機能状態等の判定のために用いられている.その中でADLレベルに依存することなく非侵襲的な評価として下腿最大周径が挙げられる.下腿最大周径は,全身骨格筋量や栄養状態,体重との関係が報告されている.しかし,下腿周径測定は再現性や正確性,そして内的な構造からみた不明確さなど多くの問題点が存在し,その臨床的意義は混沌とし不明瞭である.下腿形状に最も反映されている筋は,下腿最大筋ヒラメ筋である.そこで本研究では,ヒラメ筋形状としての内的因子と下腿周径によって把握できる下腿形状としての外的因子を分離して把握することで,その測定意義を明確にすると共に,それぞれの関係性について検討した.

【方法】対象は,足部に疾患既往の無い健常成人男性30名, 女性20名, 合計50名(平均年齢23±2歳)とした.測定項目は,BMI,下腿長,下腿周径,ヒラメ筋内的因子,ヒラメ筋筋力である.被験側は右側とした.下腿周径は,腰掛け座位にて股・膝関節90°屈曲位,足関節底背屈0°にて測定した.ヒラメ筋内的要因を筋厚,羽状角,筋線維長とし,超音波画像診断により測定した.下腿長を腓骨頭下端から外果中央部までとし,下腿長を100%とした場合に腓骨頭下端から何%の部位が下腿最大膨隆部位であるのかを同定した. 下腿周径・筋厚は,腓骨頭下端を0cmとし,1cm刻みで測定した.ヒラメ筋の筋力測定には,BIODEXを用い,加えて表面筋電図にて筋活動も記録した.運動課題は,5秒間の最大等尺性随意収縮を3回測定した.測定肢位は,股・膝関節90°屈曲位,足関節底背屈0°とした.統計的検討には, ピアソンの積率相関分析を用い,有意水準は危険率5%未満とした.

【説明と同意】対象者には口頭にて研究の主旨を説明し,研究参加の同意を得た.本研究は,聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認のもと実施した.

【結果】各項目の平均値,相関係数について,以下に全対象,男性,女性の順番で示す.各項目の平均値は, BMI(kg/m2)21.0±3.0,22.3±2.7,19.3±2.5,下腿最大周径(cm)36.4±3.5,38.1±3.1,33.8±2.3,ヒラメ筋最大筋厚(mm)13.2±2.9,14.8±2.2, 10.7±1.8,羽状角(°)14.8±3.7,17.0±2.5,11.5±2.6,筋線維長(mm)51.9±6.3,50.6±5.9,53.9±6.5,下腿底屈筋力(Nm)115.5±34.7,135.9±26.7,84.9±19.0, 筋電積分値(mV)30.7±22.2, 27.1±19.8, 36.1±24.9,平均周波数(Hz)132.1±30.4,136.8±34.1,125±22.6であった.下腿最大膨隆部位については,下腿最大周径部位は26.2±1.5,26.3±1.4,25.9±1.6(%),ヒラメ筋最大筋厚部位は26.2±2.0,26.3±2.1,25.9±1.9(%)であった.同様に,下腿最大周径との相関係数は,BMI r=0.90,0.89,0.84,筋厚r=0.79,0.77,(-),羽状角r=0.72,0.59, (-),下腿底屈筋力r=0.61,(-),(-),となった.筋厚との相関係数は,羽状角r=0.86,0.63,0.86,下腿底屈筋力r=0.65,(-),(-)となった.羽状角との相関係数は,筋線維長r=-0.25,(-),-0.77,下腿底屈筋力 r=0.85,0.71,0.63となった. 筋線維長との相関関係は,下腿底屈筋力 r=-0.54,-0.47,-0.68となった.なお,相関関係にないモノを(-)と示した.

【考察】 下腿最大周径部位とヒラメ筋最大筋厚部位は,同部位であることが確認された.脂肪量や 筋肉量において性差があるにもかかわらず,下腿最大膨隆部位は下腿長を100%とした場合に, 腓骨頭下端から26%の位置に存在することが明らかとなった.筋の内的要因と下腿最大周径, 筋力との間には関係性が認められた.特に筋厚と羽状角は筋線維の集合体としての要素, 羽状角と筋線維長は筋力決定要因としての要素があるため,周径, 筋力の把握には, 筋の内的要因が関与していると考えられる.

【理学療法学研究としての意義】26%下腿最大膨隆部位を明示できたことは,下腿最大周径測定の正確性,再現性等理学療法評価において大きく貢献できたと考えられる.筋内的要因・筋力を反映した下腿最大周径囲は,身体機能活動レベルだけでなく,筋蛋白異化作用など栄養状態の把握もできることが示唆された.このことにより適切な栄養治療や理学療法により障害予防・健康維持向上・QOLの向上に寄与できるものと考えられる.

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© 2011 日本理学療法士協会
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