理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-366
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一般演題(ポスター)
地域在住高齢者における円背進行予防トレーニングの開発
予備的研究
植田 拓也柴 喜崇安齋 紗保理
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キーワード: 円背, 予防, 地域在住高齢者
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抄録

【目的】胸椎後弯変形(以下,円背)の増加はバランス能力の低下(坂光,2007)や呼吸機能の低下(草刈,2003)に影響するとされており,円背進行予防は重要であると考えられる.この円背の原因としては背筋力の低下があげられる.この背筋力低下予防が円背進行予防に重要な要素の一つになるとされており,円背進行予防トレーニングとして,体幹の伸展運動が推奨されている(Itoi,1994).
ところで,現在行われているラジオ体操は昭和26年から開始され「いつでも,どこでも,だれでも」気軽にできる健康法として定着しており,継続的に実施している中高齢者が多数いる.しかし,ラジオ体操についての先行研究は主に心疾患(松本,2005)などに関するものが多く,地域在住中高齢者の円背進行予防へ与える効果の研究はない.また,ラジオ体操は第1・第2の動作項目合計24動作中11動作(約46%)が体幹伸展動作で構成されている.このためラジオ体操の動作には円背進行予防トレーニングの要素が含まれると考えられ,ラジオ体操が円背進行予防に影響すると仮説を立てた.
本研究では,円背進行予防トレーニングの開発の予備研究として,横断調査を行い,ラジオ体操継続実施中高齢者における年齢と円背の関係を調査した.
【方法】参加者は,神奈川県S市のラジオ体操会の会員から募集した55歳~86歳の地域在住中高齢者83名(男性35名:平均年齢72.69±5.38歳,女性48名:平均年齢69.67±4.97歳,ラジオ体操継続実施年数中央値8年)である.参加者に対し,まず,問診にて現病歴・既往歴などを聴取した.また,体力測定は公園において実施した.測定項目は,円背の程度として円背指数(以下,Kyphosis Index:KI)を算出した.このKIは高値になるほど円背が重度と判断される.また,握力,膝伸展筋力,開眼片脚立位(以下,OLS),Timed Up & Go Test(以下,TUG),立位体前屈,5m歩行時間(快適・最大)を計測した.解析手法はピアソンの相関係数を用いて,全体及び性別において,年齢との相関を測定項目毎に求めた.有意水準は5%とした.
【説明と同意】参加者には事前に書面および口頭で本研究について十分な説明を行い,書面にて同意を得た.また,本研究のプロトコルは学内の審査を受けて承認済みである(承認番号:2009-G006).
【結果】全体では, 年齢との有意な相関はOLS(r=-.27,P=.014, n=83),TUG(r=-.253,P=.021, n=83)で確認された.男性では年齢との有意な相関はOLS(r=-.369,P=.029, n=83)のみに確認され,女性では有意な相関が認められた項目はなかった.
KIに関しては全体及び性別毎ともに年齢との相関は認められなかった(n.s.).また, KIの平均値は全体で7.47±3.3(%),男性で8.29±2.7(%),女性で6.87±3.5(%)であった. 5歳毎の年齢区分でのKIの平均値は男性では65~69歳で8.74±4.4(%),70~74歳で7.41±2.2(%),75歳以上で8.79±2.1(%)となり,女性では65~69歳で6.29±3.5(%),70~74歳で6.38±3.5(%),75歳以上で10.05±3.6(%)となった.
【考察】本研究においては,ラジオ体操継続実施者では,一般的に年齢に伴い進行するとされる円背では年齢との相関は確認されなかった.また,先行研究(Milne,1983)において,KIの平均値は男性(平均年齢70.1±6.4歳,n=213)で11.35±3.1(%),女性(平均年齢71.1±6.4歳,n=265)で12.63±3.6(%)であり,KIの平均値は男女ともに本研究で低値を示した.
対象者が女性(平均年齢72.7±4.7歳,n=610)のみの先行研究(Ettinger,1994)においても,KIの平均値が11.2±2.8(%)となっており,本研究で低値を示した.また, 5歳毎の年齢区分でのKIの平均値は65~69歳で11.8±3.2(%),70~74歳で12.3±3.4(%),75歳以上で12.6±3.6(%)となっており,5歳毎の年齢区分においても本研究で低値を示したが,年齢に伴いKI値が増加していく傾向は本研究と一致した.
これらのことから,両先行研究とも対象が日本人ではないが,ラジオ体操継続実施中高齢者は先行研究の対象とした同性及び同年齢の高齢者よりKI値が小さい傾向にあると確認された.また,低負荷背筋トレーニングの継続で背筋力は向上するという報告もあることから(Hongo,2007),ラジオ体操の体幹伸展運動が円背進行予防に効果がある可能性が示唆される.本研究は横断調査であり,効果の検討は行うことができない.そのため,今後はコントロール群を設定した上で介入研究を実施することで,中高齢者が簡便に行える円背進行予防トレーニングの開発が可能になると考えられた.
【理学療法学研究としての意義】理学療法士として,介護予防に関わることは重要なことである.その1つとして円背による身体・運動機能低下を予防するための地域在住高齢者が簡便に行える円背進行予防トレーニングの開発が必要であると考えられる.本研究は,今後,ラジオ体操の動作項目を参考とした円背進行予防トレーニングの開発につなぐことが可能であり,それを検討するための基礎資料として意味があるといえる.

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© 2010 日本理学療法士協会
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