理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-180
会議情報

一般演題(口述)
知的障害者短距離走選手における走動作の解析とその有用性について
島 雅人片岡 正教川﨑 純木村 大輔南野 博紀藤本 愛美安田 孝志赤井 友美上田 絵美岡原 聡下野 貴之奥田 邦晴
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抄録

【目的】
本研究の目的は、知的障害者陸上競技における走動作の解析を行い、その現状を運動学的視点から分析するとともに、競技能力の向上に対する動作解析の有用性を明らかにすることである。また、走動作の解析結果を選手及びコーチへフィードバックする事により、知的障害者のスポーツ活動に対する動作解析の必要性を模索する事である。
【方法】
2009年8月21日~23日に静岡県浜松市四ツ池公園陸上競技場にて実施された、日本知的障害者陸上競技連盟主催の国内強化合宿に参加した短距離走者5名(男性4名、女性1名、平均年齢20.8±1.8歳)を対象とした。タータントラックにて100m走を実施し、ゴール前20m地点より走動作の解析を実施した。選手は各自のスパイクを着用した。トラックへは、ストライドの確認のため1m間隔でラインを引いた。スターティングブロックの設定は担当コーチ確認の下で行い、スタート号砲及び記録に関しても陸上競技関係者にて実施した。計測及び解析は三次元動作解析ソフトToMoCo VM(東総システム社製)を用いて、身体19ヶ所にマーカーを装着し6台のデジタルビデオカメラにて撮影、60Hzでキャプチャーし、同期編集、デジタイズの後、動作解析を実施した。また、デジタイズした三次元動作解析データーを基に、選手及び指導者への報告会を実施した。分析内容は、各選手のピッチ、ストライド、体幹の前傾および回旋角度、重心の上下変位、肩関節と股関節の屈伸角度および角速度とそのタイミング、下肢の各関節における角度変化である。
【説明と同意】
本研究は、財団法人日本障害者スポーツ協会特定競技要素強化支援事業の一環として実施した。実施内容及びデータの研究目的による使用は、協会ならびに本人、家族への説明と同意が得られている。
【結果】
走行タイムは平均13.12±1.51秒(A選手12.19秒、B選手12.20秒,C選手12.38秒,D選手13.11秒,E選手15.73秒)であった。三次元動作解析装置による計測結果の平均は、ピッチ4.18±0.26Hz、ストライド1.97±0.19m、体幹の前傾角度10.97±2.08度、最大回旋角度37.11±12.11度、肩最大屈曲角速度827.39±111.66度/秒、肩最大伸展角速度969.16±62.91度/秒、股最大伸展角度71.50±3.94度、股最大屈曲角速度788.27±61.09角速度股最大伸展角速度771.01±76.70度/秒であった。走行記録との関連では、速い選手に比べ、遅い選手に共通して、下肢接地直後の減速変化が大きい、下肢接地から足先離地までの速度変化が少ない、肩伸展速度のピークが下肢接地時期の後にあるというとが挙げられた。しかし、その原因に関しては、各選手様々な特徴があり、全てに共通する項目は見当たらなかった。走行タイムの遅かったD、E選手の主な特徴を挙げると、下肢接地時に大転子と外果を結ぶ線が、大転子より降ろした垂線より前方へ位置している、体幹の最大回旋および股最大屈曲角度がやや大きいなどが認められた。
【考察】
今回計測及び分析を実施した5名の選手は、国内大会標準記録を有するが、国際的な大会において成果を挙げるためには、さらなる走行タイムの向上が必要である。今回の動作解析結果から、選手個々の特徴と課題が、より客観的な測定値をもとに把握することができた。また、その結果をフィードバックすることにより、日々の視覚的な動作確認と指導では気付けなかった部分が認識できたことは、今後の競技能力向上のための第一歩になると考える。今回の結果より、知的障害者の競技能力向上のためには、障害を有しない競技者同様に、動作解析をはじめとした科学的支援が必要である事が示唆された。現在、知的障害者への動作解析を通した科学的支援はほとんど行われていないが、このような支援活動が知的障害者の競技能力を向上させ、社会参加の機会を広げていくのではないかと考える。今回は、競技能力を低下させている心身機能の要因までは特定できなかったため、今後は、心身機能との関連や、本解析結果を基にした練習や指導が、競技能力の向上にどのように寄与するかを追跡調査していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
走動作に関する科学的研究は盛んに実施されているが、その研究成果を活用し、知的障害を持つ競技者に対する分析活動や競技能力向上のための研究はほとんどみられない。今回の結果から、知的障害を持つ競技者に対しても、競技パフォーマンスの運動学的分析と競技能力向上のための取り組みが必要であると考える。理学療法学研究として、知的障害者の競技特性を解析することは、競技能力の向上につながるだけでなく、知的障害者の社会参加支援の一手段として意義ある内容であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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