理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-116
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一般演題(ポスター)
腱板断裂における筋力とMR画像所見との関連
杉安 直樹山下 導人内野 潔
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キーワード: 腱板断裂, 筋力, MRI
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抄録

【目的】
肩関節疾患の診断でMR画像は高い疾患的中率を誇り、研究材料としても有用性は広く認識され筋断面積による検討もなされている。今回肩機能の中心的役割を担う腱板に注目し、腱板断裂の画像を検討した。MR画像で検討可能な肩筋力に影響する画像所見を、腱板筋の筋断面積とMclaughlin法における棘上筋腱の縫着位置と捉え、肩筋力との相関関係を検証した。
【方法】
平成15年4月~20年6月までに当院で腱板再建術(Mclaughlin法)を施行した35例のうち長期成績を追跡し得た男性6例(6肩)女性3例(3肩)、平均年齢62.3±8.9歳、計9例(9肩)を対象とし、断裂径5cm以上の大断裂例、再断裂例は除外した。肩屈曲・外転・内外旋の自他動関節可動域、筋力、日整会肩関節疾患治療成績判定基準(以下JOA-S)を測定した。筋力は坐位で屈曲筋力(肩屈曲90°位、肘完全伸展位、回内外中間位)、外転筋力(肩外転90°位、肘完全伸展位、回内外中間位)、内外旋筋力(肩下垂位、肘屈曲90°位、回内外中間位)を等尺性収縮5秒間保持にて3回測定、健側比として術側を非術側で除したものを測定値とし、その平均値を求めた。測定機器は等尺性筋力測定器MICROFET2(日本メディックス社製)を用いた。MR画像上での検討は、正中位矢状断T2強調画像でScapula Y上を測定部位とし、棘上筋筋腹の面積を測定した。個体差をなくすために冠状断像で測定した上腕骨頭面積で除した値を使用した。棘上筋の縫着距離として、MRI冠状断像のうち大結節(棘上筋付着部)から骨溝までの最大距離が確認できる画像を選択、大結節から骨溝までの距離を測定し骨頭径で除して補正した値を縫着距離とした。統計処理はピアソンの相関係数を用い、有意水準0.05未満を有意差ありとした。
【説明と同意】
全症例に医師立会いの下、本研究の方法・目的を十分説明し承諾を得た上で研究を実施した。
【結果】
関節可動域は自他動共に非術側との差はなく、また筋力・画像との相関はみられなかった。JOA-Sも同様であった。棘上筋筋腹の面積と屈曲筋力r=0.73、p=0.025、外転筋力r=0.71、p=0.030、外旋筋力r=0.84、p=0.004は有意な正の相関がみられ、筋断面積が大きいほど筋力は高かった。内旋筋力は相関しなかった。縫着距離と外転筋力r=-0.67、p=0.048は有意な負の相関がみられた。縫着位置から大結節までの距離が大きいほど、すなわち縫着位置が中枢側に近位であるほど外転筋力は低かった。屈曲、外旋、内旋筋力は相関しなかった。
【考察】
腱の骨縫着後、腱接合部の修復完成に24週要したという動物実験から、腱板修復期間に術後6ヶ月は少なくとも要するとの報告がある。今回、術後1年以上を経過した症例の棘上筋筋腹の面積と筋力は有意な相関が得られ、肩機能回復の一評価となりうることが示唆された。断裂後の筋ボリュームが6週で32%減少し変化がなかったとの報告の一方で、術後2年間で棘上筋筋腹厚が小断裂では回復傾向がみられたとの報告もあり、後者は今回の結果と近似している。術後筋力訓練開始時期の関与が示唆される。石谷らは積極的な筋力訓練を術後3ヶ月以降実施し、術後6ヶ月で有意な筋力の増加を示すと報告している。再断裂・炎症の再燃に留意し、断裂径の大小等適応を見極めた上で積極的な筋力訓練の実施を図る事で、より早期の機能回復効果獲得が期待され、術前からの経時的評価が必要である。また棘下筋筋腹評価が腱板回復指標として有効と畑らは報告しており、今後検証に取り入れていきたい。今回の検討での縫着部位がより中枢になるほど外転筋力が低下していた結果は、Heviaserらの骨溝の内側移動で外転筋力が低下したという臨床報告と近似したものであった。棘上筋自体の外転筋力は小さく、筋出力の多くはアウターマッスル特に三角筋に依存しているが、棘上筋のレバーアーム長の低下により腱板の筋バランスが崩れ、force coupleが十分機能しなかった結果と推察した。外転筋力以外の屈曲・外旋・内旋筋力には相関はみられず、JOA-SやADLに大きな支障は及ぼしていなかった。術後肩機能には、内的因子として腱板の変性程度、断裂形態、外的因子として受傷後から手術療法に至るまでの期間、性別、利き手、職業等が関与すると考えられる。今回の検証では筋力に主眼を置いたが総合的な検証が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
肩筋力の獲得は患者の社会復帰に重要である。MR画像を筋力評価の1つとして取り入れることで、よりエビデンスの高い評価が実施できる。腱板断裂だけでなく、他の肩疾患にもこの評価を実施できる可能性がある。患者への理学療法効果の説明として、具体的数値があると納得が得やすく、訓練の動機付けとなり得る。

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© 2010 日本理学療法士協会
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