理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-003
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一般演題(ポスター)
ラット骨格筋における間歇的伸張運動による筋血流分布の変化
放射性トレーサーを用いた評価
稲岡 プレイアデス 千春山崎 俊明篠原 舞衣中島 由貴天野 良平
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キーワード: 伸張運動, 筋血流量, ラット
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抄録

【目的】
伸張運動は関節可動域の改善や筋線維の柔軟性の維持や改善の目的で理学療法では多く用いられている。しかし、間歇伸張運動についての報告は少なく、さらに筋の局所血流との関係を報告したものは少ない。本研究の目的は伸張運動による局所血流の効果をタリウム―201(201Tl)トレーサー法で検討することである。
【方法】
8週齢のWister系雄ラット28匹(242±15g)を用いた。ラットは、伸張運動群と対照群に無作為に振り分けた。伸張運動群をラットの自重の1/2の張力負荷量で1分間に1.5回の頻度(20秒間伸張、20秒間弛緩のサイクル)で麻酔下の伸張運動を10分間行う群(S1群、n=7)と同張力負荷で1分間に3回の頻度(10秒間伸張、10秒間弛緩のサイクル)で麻酔下の伸張運動を10分間行う群(S2群、n=7)に無作為に振り分けた。対照群は伸張運動を実施しないが、実験群と同様に、麻酔下の対象群(C1群、n=7)と、覚醒した対照群(C2群、n=7)に無作為に振り分けた。足関節底屈筋の間歇的伸張運動は木村らの装置を用いた。伸張運動中にはラットを仰臥位で、両股関節及び両膝関節を90度屈曲位に保持した。全群に塩化タリウム(201TlCl)を腹腔内に投与し、運動修了後と投与30分後の時間を合わせ、安楽死させた。左右のヒラメ筋、足底筋、腓腹筋、長趾伸筋、前頸骨筋を解剖摘出し、各筋全体の放射能をγカウンターで測定し、その後、各筋の50μの凍結切片によりオートラジオグラフィー法(ARG)で筋の局所放射能を調査した。統計学的分析では群間の比較にはDunnett’s法を用い、同群内の筋間比較にはTurkey’s法を用いた。いずれも有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
本研究は本大学動物実験委員会において承認を得て行われたものである(承認番号AP081188)。
【結果】
γカウンター測定結果ではC1群とC2群間の比較ではC2群の全ての筋において201Tlの取込が有意に高かった。C1群とS2群間の比較でも、S2群の全ての筋において201Tlの取込が有意に高かった。C1群とS1群の間には有意差は認められなかった。S1、S2群間比較にでは、ヒラメ筋において有意な高値が認められた。群内の筋間比較ではC2群のヒラメ筋が他の4つの筋より著しく高値を示した。S2群内でもヒラメ筋の高い放射能の濃度が認められたが、足底筋との比較では有意差が無かった。ARG測定結果ではC1群とC2群間の比較ではC2群のヒラメ筋の遠位部がC1群の201Tlの取込は有意に高かった。群内筋間比較ではS2群の足底筋と腓腹筋の中間部と近位部の取込が遠位部より有意に高かった。
【考察】
201TlトレーサーはKの類似性によりNa-KポンプやKチャネルに依存して筋組織に取込まれることで、心筋や腫瘍などの血流の評価にすでに用いられている。間歇的伸張運動は1分間に1.5回の頻度より1分間に3回の頻度の早いサイクルの方が201Tlの取込が全体的に高く、ヒラメ筋の血流の増加が著しかった。藤野らはラットヒラメ筋を他動的に伸張した場合、他動張力伸張直後に最も高くなり、伸張位を保持することで張力が減衰し、4秒後にほぼ一定した張力が得られたと報告している。また、永利らはヒトに対して伸張運動装置を用いた実験おいて、血行を改善するにはペダル角度を一定に保つより変化させた方が効果的であったと述べている。これらの報告から1分間に3回の頻度の早いサイクルの伸張運動の方が遅いサイクルより強い張力が多く負荷され、また多くの回数が加わり、筋血流促進効果も高かったのではないかと予測される。単一の筋の血流分布は筋によって均一ではないことはMizunoらも報告されている。今回は覚醒ラット及び早いサイクルの伸張運動を行ったラットの足底筋と腓腹筋の近位と中間位において、血流分布が増加することが示唆された。今後、伸張運動の強度による効果や、効果の持続性、廃用性筋萎縮に対しての抑制効果などを検討することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究は動物実験による基礎的研究であるが、ヒトへの応用と比較は今後、充分考えられる。1分間に3回の間歇的伸張運動を10分間実施することによって有意な筋血流増加と部位による血流分布の差が得られたことから、今後、理学療法に筋血流改善の目的で間歇的に伸張運動を行う方法を支持し、筋の部位による効果の差を示唆する研究となった

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© 2010 日本理学療法士協会
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