理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Se2-035
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専門領域別演題
ペダリング運動と経皮的電気刺激の併用治療の効果
山口 智史藤原 俊之田辺 茂雄村岡 慶裕齊藤 慧小宅 一彰大須 理英子大高 洋平里宇 明元
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キーワード: 相反抑制, 電気刺激, 脳卒中
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抄録

【目的】
脳卒中片麻痺患者において,ペダリング運動が痙縮の改善に有効なことが報告されている.また,痙縮筋の拮抗筋に対する電気刺激についても,痙縮の改善に有効なことが知られている.今回,ペダリング運動中に電気刺激を組み合わせて行うことによる脊髄相反性抑制の変化を,健常者および脳卒中患者で検討した.
【方法】
対象は健常男性8名(年齢27.3歳±3.0)と脳卒中患者2名とした.脳卒中患者の対象1は,年齢45歳,発症後68日,右片麻痺,下肢運動麻痺SIAS(4,4,4),歩行能力は屋内自立レベルであった.対象2は,年齢66歳,発症後69日,左片麻痺,下肢運動麻痺SIAS(4,4,4)で,歩行能力は4脚杖で屋内修正自立レベルであった.介入は,ペダリング運動+電気刺激(以下,PE-TES),ペダリング運動のみ(以下,PE),電気刺激のみ(以下,TES)の3課題を、3日以上の間隔をあけて全対象者に実施した.PE-TESは,ストレングスエルゴTRと電気刺激装置を用いて行い、ペダリング運動中に,健常者では右下肢,脳卒中患者では麻痺側下肢へコンピューターで制御した電気刺激を加えた.電気刺激は,ペダリング運動中の伸展相(股関節最大屈曲位から最大伸展位)に,前脛骨筋および総腓骨神経へ行った.PEの運動様式はアイソトニックモード,負荷量5Nm,正回転で任意のペダル回転速度で実施した.TESは,ストレングスエルゴTR上での座位で,PE-TESと同様の電気刺激の強度および周期で刺激を行った.すべての課題で,実施時間は7分間とした.
評価は,健常者には,神経生理学的評価を,脳卒中患者には加えて運動機能評価を行った.神経生理学的評価は,ヒラメ筋H波を用いた条件―試験刺激法により,2シナプス性相反抑制を測定した.試験刺激のみで誘発されるH波振幅に対して条件刺激を与えたときのH波振幅の比を求め,条件刺激によるH波振幅の減少を相反性抑制の強さとした.試験刺激は膝窩にて行い,Mmaxの10~20%の振幅のH反射が誘発される刺激強度とした.条件刺激は腓骨頭の位置で総腓骨神経を刺激し,その強度は前脛骨筋の運動閾値とした.条件-試験刺激間隔は0~3msecとした.測定は介入前後,15分後,30分後に実施した.また,脳卒中患者においては,運動機能評価として10m最速歩行時間および歩数,modified Ashworth scale (MAS),足関節周囲筋の筋活動(表面筋電図)を課題前後で評価した.統計処理は,健常者データのみで実施し、繰り返しのある2元配置分散分析,多重比較検定を行った.有意水準は,5%未満とした.
【説明と同意】
本研究は東京湾岸リハビリテーション病院倫理審査会の承認を得た上で,全ての対象者に研究についての説明を実施し,書面にて同意を得た.
【結果】
健常者での課題間の比較では, PE-TESによるヒラメ筋へのIa 相反抑制が、介入直後、15分後に他の課題(PE、TES)と比較し有意に増加した(p<0.05).また,介入ごとの検討においては,PE-TESで,介入前後,介入前と15分後に有意差を認めた(p<0.01).PEおよびTESにおいては,介入前後で有意な増加を認めた(p<0.05).
脳卒中患者においては, 1例でPE-TES後のIa相反抑制が著しい増加を示し,その効果は15分後にも持続した.またPEおよびTESにおいては,直後にIa相反抑制の増加を認めたが,15分後には治療前の値に近づいた.一方で,もう1例においてはすべての課題で大きな変化を示さなかった.運動機能評価においては,対象者1でPE-TES前後に歩行時間の短縮と歩数の減少を認め,PEとTES後には改善を認めなかった.MASはPE-TESおよびPE治療前後の膝関節伸展に低下を認めた.筋電図はPE-TES後に背屈運動時の主動作筋の筋活動増加と拮抗筋活動の減少を認めた.対象者2においては,歩行時間および歩数はすべての課題後に減少したが,PEで最も減少した.MASは,PE-TESの前後で膝関節屈曲に低下を認め,PE前後では膝関節屈曲伸展で低下した.表面筋電図では大きな変化を認めなかった.
【考察】
今回,健常者において,ペダリング運動中に電気刺激を組み合わせて行うことによって,個々の治療単独よりIa相反抑制が増強することが示された.また脳卒中患者においても、対象者1名で痙縮の改善とそれに伴う歩行能力の改善を認めた.これらの結果から,ペダリング運動または電気刺激単独よりも,両者を組み合わせて行うことによって,さらなる治療効果が得られる可能性が示唆された.今後,症例数を増やし,その効果とメカニズムを検証していきたい.
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,脳卒中患者の痙縮に対する新しい治療法の可能性を示唆する重要な研究である.

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© 2010 日本理学療法士協会
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