理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-519
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内部障害系理学療法
血液透析患者における股関節可動域制限の検討
福埜 郁子中沢 知子谷口 まどか菅原 秀徳城戸 智之
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抄録

【目的】血液透析が長期になると主に骨・関節の周囲にβ2ミクログロブリン(以下,β2MG)が沈着し透析アミロイドーシスを合併することが知られている.これにより関節の動きが阻害され,歩行また日常生活動作(以下,ADL)が制限される.好発部位は肩関節,手関節周囲の手根骨,脊椎,股関節等の可動性の高い部位であり特に股関節は歩行,ADLの中心となる重要な荷重関節である.今回,我々は当院に通院する血液透析患者の股関節の関節可動域(以下,ROM)を測定し透析歴によるROM制限を比較検討した.

【対象】明らかな股関節疾患の既往のない独歩可能な血液透析患者30名のうち,透析歴10年未満の15名をA群,透析歴10年以上の15名をB群とした.A群は男性4名,女性11名で,平均年齢67.7±11.1歳,平均透析歴4.6±2.5年,シャント側は左上肢13名,右上肢2名であった.B群は男性10名,女性5名で,平均年齢61.1±8.4歳,平均透析歴21.6±7.3年,シャント側は左上肢12名,右上肢3名であった.

【方法】血液透析開始前に両側の股関節全方向のROMを他動的に測定し,疼痛の有無も併せて確認した.A群とB群の結果をt検定を用いて比較検討した.

【結果】両群とも両側の股関節全方向にROM制限を認めたが,A群に比しB群で両側の屈曲,内旋に有意な制限の差を認めた(p<0.01).また左側の外転においてもA群に比しB群で有意な制限の差を認めた(p<0.05).その他の運動では有意差を認めなかった.疼痛はB群の2名で屈曲,内旋運動時に認めた.

【考察】透析アミロイドーシスは10年以上を経過した透析患者に高頻度に合併する.これは腎機能の廃絶によりβ2MGという中分子蛋白の血中濃度が上昇し,アミロイド線維として骨関節,皮下組織,筋膜,皮下滑液包などいたるところに蓄積,炎症をおこすためと考えられている.そのため大転子部など外力による圧迫が加わりやすい皮下組織への蓄積や股関節前面に来たしやすいとされる滑液包炎などがROM制限を生じた一因と考えられる.さらに今回,外転では左側のみで両群間にROM制限の有意差を認めた.これは血液透析は平均週3回,1回4時間と長時間であり、また寝返りを行う際にシャント側(透析回路に繋がれる側)に行わなければならない.対象者の多くはシャントが左側であり左大転子部が圧迫される機会が多い事が影響したのではないかと推測された.
さらに血液透析が長期になると全身状態の悪化に伴い運動耐容能の低下,活動量の低下を来たし,それに伴う和式から洋式への生活様式の変化なども影響していると思われる.以上より血液透析患者のQOLを維持するために予防的な運動療法等の必要性が考慮された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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