理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-457
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骨・関節系理学療法
第一肋骨低形成と頚腕神経叢
時田 幸之輔米良 佳余子小坂 雅代熊木 克治佐藤 昇
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抄録

【緒言】胸郭出口症候群の原因の一つに第一肋骨の低形成がある. 第一肋骨が胸骨と関節しない(第一肋骨低形成)例の頚腕神経叢について報告する.
【方法】第1回マクロ解剖学セミナー新潟(2007,新潟大学医学部)にて遭遇した第一肋骨低形成例の左右におけるC2からTh3までの脊髄神経前枝(頚腕神経叢)に由来する神経について, 根から末梢分布までを肉眼解剖学的に観察を行った. 本研究は倫理委員会規定には抵触しない.
【結果】第一肋骨の長さは左2cm,右6cm. 左前斜角筋は第二肋骨に停止する. 右前斜角筋は第一,二肋骨に停止する. C2脊髄神経前枝は非常に細くC3への交通枝のみである. C3はC2からの交通枝を受けた後,頚神経ワナの下根,小後頭神経,大耳介神経,頚横神経,胸鎖乳突筋枝を分枝する. C3,4間には相互間の交通枝を有する. C4は横隔神経,鎖骨上神経,僧帽筋枝を分枝する. C5は横隔神経への交通枝と副横隔神経(右のみ)を分枝した後,C6と合して上神経幹を構成する. C7は中神経幹となる. C8,Th1にTh2も合流して下神経幹となるが,このTh1は第一肋間に向かう枝(第一肋間神経)を分枝せず,すべて下神経幹に参加する. また,第一肋間の肋間筋にはTh2からTh1への交通枝より分枝した筋枝が分布する. Th2は根部でTh1への交通枝を分枝した後,第二肋間神経となる. 左の第二肋間神経からは,第二肋骨上縁で前斜角筋の内側縁を迂回し,筋の前面を通り外側へ走り,内側神経束の下縁へ合流する枝も分枝する. なお,前斜角筋の内側縁を迂回する際,第二肋骨上縁に沿って前方へ分布する細枝も認める. 第二肋間に出るTh2の肋間神経外側皮枝(Rcl)だけでなく, Th3 Rclも腕神経叢と交通を形成する肋間上腕神経(Icb)を構築している.
【考察】頚椎の横突起前結節は肋骨が変化したものであると言われる. 今回観察した症例は,第一肋骨が短いので,第一胸椎がより頚椎に近い形状に変化したと解釈できる. 頚腕神経叢の構成を観察すると,C2は細くC3への交通枝のみであり,通常皮枝が存在しないC1に近い形態となっている. また,Th1は肋間神経を分枝せず,すべて下神経幹に参加し, Th2も根部でTh1への交通枝を分枝し下神経幹に参加している. さらに, Th3Rclも腕神経叢と交通するIcbを形成している. これらのことは頚腕神経叢の下方へのズレを示している. 前回,我々は「第12肋骨の長さが短くなる(腰椎化)」と「腰神経叢由来の各神経の起始分節の上方へのズレ」との関連を報告した. 今回も同様に「胸椎の頚椎化」と「頚腕神経叢の下方へのズレ」は関連した変異と言える. 以上より,第一肋骨低形成を原因とする胸郭出口症候群では「頚腕神経叢の下方へのズレ」という特徴があるので根症状を解釈する際には注意を要すると言える.

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© 2009 日本理学療法士協会
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