理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-381
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骨・関節系理学療法
大腿骨近位部骨折術後の歩行自立影響因子
大坪 尚典葛巻 尚志山口 美紀山元 絵美森川 精二
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抄録

【目的】大腿骨近位部骨折の術後において、歩行再獲得に影響する因子は様々である.今回我々は、重回帰分析によりその検討を試みた.なお本報告は後方視的な観察研究論文であり、投稿に際し当院倫理委員会の了承を得た.【対象】平成18年1月~20年10月に当院で完結した在宅患者78名(男性16名、女性62名)、平均年齢±標準偏差は81.7±9.2歳、平均手術待機日数は7.2±4.7日(中央値6)、平均在院日数は53.6±16.4日である.受傷部位は、頚部骨折32名、転子部骨折46名、受傷場所は屋内52名、屋外26名、術式は骨頭置換術19名、骨接合術59名であった.以上は、日本整形外科学会の全国調査(2005)と近似する事を確認した.また、全例とも受傷前は屋内歩行が可能であり、うち47名は外出可能であった.認知症については、「介護保険の認定基準IIa以下」をあり群と定義し、頻度は24名(30.8%)であった.併存症は「プログラムの遅延や変更の原因になったもの」をあり群と定義し、21名(26.9%)であった.同様に合併症あり群は14名(17.9%)で、不安定型による免荷例も含めた.転帰は、屋内歩行再獲得率75.6%、自宅復帰率61.5%であった.【方法】屋内歩行再獲得の可否を従属変数とするロジスティック回帰分析を行なった.尤度比による変数増加法のモデルを選択した.独立変数は、年齢、性別、併存症、合併症、認知症、受傷前歩行レベル、および在院日数で、事前にクロス集計表や散布図で著しく直線関係を示す変数がない事を確認した.【結果】独立変数のうち、年齢、受傷前歩行レベル、および認知症が選択された.モデルχ2検定の結果はp<0.01で有意であり、各変数もp<0.05で有意だった.オッズ比、有意確率とも認知症の影響が最も強かった.HosmerとLemeshowの検定結果はp=0.491、判別的中率は82.1%で共に良好だった.実測値に対し、予測値が±3SDを超える外れ値はなかった.【考察】先行研究では、年齢、受傷前の歩行レベルや下肢筋力、および認知症が影響因子として挙げられる場合が多い.丸山ら(2007)はHDS-Rに差を認めたと報告しており、認知症の影響は一般に大きいとされている.対象の認知症は平均的と思われたが、選択された変数の中では最も大きな影響を認めた.認知症が軽度な場合、遠位監視や指導により量的な歩行訓練は実施可能である.しかし中等度の場合、近接監視や介助なしでは困難な場合が多い.当院では1対1対応が不十分な状況もあり、結果として要介助例の歩行訓練が不足した場合があった.術前機能が良好な中等度認知症例に対し、術後の改善をいかに図るかが今後の課題と思われる.一方、合併症や併存症の影響を指摘した報告は少なく、本研究でも選択はされなかった.これらは治療遷延の原因となる場合もあるが、必ずしも歩行自立を妨げない事が示唆された.【まとめ】年齢、受傷前歩行レベル、認知症が歩行自立に影響し、特に認知症の影響が強い事を再確認した.

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© 2009 日本理学療法士協会
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