理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-116
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理学療法基礎系
磁気刺激の刺激間隔の違いが萎縮骨格筋へ及ぼす影響
藤原 義久藤田 直人荒川 高光三木 明徳
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抄録

【目的】
骨格筋には収縮特性の異なる線維が混在し、生化学的にはミオシン重鎖(Myosin Heavy Chain;MHC)2種、すなわち遅筋成分を示すMHC Iと速筋成分を示すMHC IIに大分される.長期臥床やギプス固定により、骨格筋は萎縮だけでなく遅筋線維の速筋化が生じ(Martin et al,1988)、これらの予防は理学療法において重要な課題である.我々は深部組織に直接刺激できる磁気刺激を筋萎縮の予防に用い(藤田, 2007; 藤原, 2007)、深部に存在する抗重力筋を効果的に刺激するには、磁気刺激の刺激間隔を着目する必要性に気づいた.そこで、遅筋と速筋の代表であるヒラメ筋と足底筋を対象とし、磁気刺激の刺激間隔の違いが筋萎縮や筋線維の生化学的組成変化に及ぼす影響を検討した.
【方法】
8週齢のWistar系雄ラットを、対象群(C群)、2週間の後肢懸垂群(HS群)、後肢懸垂期間中に毎日、磁気刺激を短い間隔(刺激回数2秒毎60回)で行った群(MS群)、磁気刺激を長い間隔(刺激回数20秒毎60回)で行った群(ML群)に区分した.磁気刺激にはMagstim200(ミユキ技研)を用い、下腿後面の筋腹中央部を経皮的に刺激した.実験期間終了後にヒラメ筋と足底筋を摘出し、筋湿重量から相対重量比を算出した.次に、MHCを MHC I、MHC IIa(最小)、MHC IIx(中間)、MHC IIb(最大)の4種類に分離し、MHCの発現比率を算出した.全ての実験は、神戸大学における動物実験に関する指針に従って実施した.
【結果】
ヒラメ筋と足底筋の筋湿重量および相対重量比では、HS群、MS群、ML群がC群より有意に減少した.HS群とML群との間には著明な差を認めなかったが、HS群よりMS群で統計学的な差は見られないものの減少傾向を示した.MHCの発現比率では、ヒラメ筋MHC I発現はC群よりHS群とML群では減少傾向を示したが、MS群はC群と同程度であった.また、MHC IIx 発現では、ヒラメ筋のHS群とML群間に著明な差は見られず、MS 群はこの2群より統計学的な差は見られないものの減少傾向を示した.足底筋の各群でのMHCの発現比率に著明な違いは見られなかった.
【考察】
筋湿重量および相対重量比でみると、ヒラメ筋と足底筋ともに磁気刺激による萎縮筋への影響は軽微で、刺激間隔の短いMS群では筋萎縮を促進させてしまう可能性が示された.MHCの発現比率でみると、刺激間隔が短いMS群のヒラメ筋では後肢懸垂により惹起させた速筋化を抑制する可能性が示されたが、刺激間隔の長いML群ではヒラメ筋の速筋化を促進してしまう結果となった.また、足底筋の生化学的組成に著明な変化がなく、後肢懸垂や磁気刺激の影響が足底筋には見られないとわかった.よって、今回の研究から、磁気刺激の刺激間隔が短いと、ヒラメ筋と足底筋の筋萎縮を進めてしまうがヒラメ筋の速筋化が抑制されること、刺激間隔が長いとヒラメ筋や足底筋の萎縮を予防できるがヒラメ筋の速筋化抑制はできないという可能性が示された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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